小寺信良のGadget 2 Go!
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現時点でもっとも実用的なBluetoothイヤホン、アップル AirPods

2016年末から日本でも発売が開始されたアップル AirPods。執筆時点ではApple Storeでも出荷が6週間待ちとなっており、欲しい人に潤沢に行き渡るまではまだしばらくかかりそうだ。それまでの間、ちょっとしたうんちくでお楽しみいただければと思う。

昨年末に発売が開始されたアップル AirPods

昨年末に発売が開始されたアップル AirPods

左右が独立したBluetoothイヤホンは、国内では2015年末に発売が開始された「EARIN」が最初に入手可能になった製品ということになるだろうか。その後いくつかのベンチャーが参入したが、大手ではオンキヨーの「W800BT」、アップル「AirPods」程度と言うことになる。

イヤホンメーカーは数々あれど、なぜ左右独立型イヤホンが少ないのか。それは、左右間をワイヤレスでつなぐのが難しいからである。現在のBluetooth規格では、スマートフォンからLR独立した音声ストリーム2本を同期させて発信することができない。したがってイヤホンの左右のどちらか片方がスマートフォンと接続してステレオストリームを受け取り、そこからもう片方へ半分を伝送させる必要がある。

だが、問題は頭部だ。頭というのは、電気的に言うならばリン酸カルシウムに囲まれた水風船みたいなものなので、頭の中を通って直線で電波を伝達することができない。電波は水中では急激に減衰するからだ。さらに健康を考えれば、脳を貫通するほどの強い電波をずっと受け続けるわけにもいかない。この問題がなかなか解決できないため、左右独立型のイヤホンがなかなかできないのである。

いっぽうAirPodsではどのようにしてそれを実現しているのか。話は2015年末にさかのぼる。このころ、ドイツのBragi(ブラギ)というメーカーが、「The Dash」という左右独立型のイヤホンを製品化した。この製品で左右間をつなぐために使われたのが、「近距離磁気誘導(NFMI)」という技術である。これは電波ではなく、電磁誘導を利用した通信技術で、補聴器の世界では10年以上前から使われていた。

電波ではないので、水を貫通できる。また人体に吸収される信号量は、同出力のBluetoothに比べると1万分の1しかない。ただし欠点は、1m程度の近距離しか通信できないことである。だが、頭を通り抜けるという用途であれば、1mあれば十分だ。

元々NFMIを研究開発してきたNXPセミコンダクターズは、2016年4月にBragiの協力を得ながら、NFMI対応の超小型SoC「NxH2280」の量産を開始した。したがって2016年末には、この技術を使った左右独立型イヤホンがたくさん出てくるだろうと予測されていた。その予想にどんぴしゃではまったのが、アップル AirPodsというわけである。

実用的な使い勝手を実現

AirPodsが画期的な部分は、ほかにもある。ひとつは、接続距離の長さだ。現時点での最新規格であるBluetooth4.2の伝送距離はおよそ30mだが、実際にiPhone 7 PlusとAirPodsで見通し距離でテストしてみたところ、本当に30m程度伝送できることを確認した。室内においては、従来だと接続が切れてしまった壁と廊下を隔てた隣室やトイレの中までも、途切れることなく音楽を楽しむことができている。

さらにBluetooth規格にのっとってはいるが、その中でアップルは独自技術を載せているため、従来のBluetoothイヤホンとはペアリングの挙動が違っている。従来のマルチペアリング対応イヤホンは、複数の再生機器とのペアリング情報を記憶できるため、別の機器に接続する際にいちいち再ペアリングが必要ないというメリットがあった。

そのいっぽうで、最後に接続した機器に自動的につながりにいくので、別の機器に接続したい場合は、いったん現在つながっている機器との接続を切るという作業を行なったのち、改めて別の機器に接続する必要がある。これは、遠くでつながった機器との接続を切るために、わざわざそこまで行って切断動作を行なわなければならないと言うことを意味する。

いっぽうAirPodsの接続方法は、最後に接続した機器と再接続する点は同じだが、新しくつなぎたい機器から接続のリクエストを出すと、自動的に現在の接続を切り、新しい機器とつながる。常にあとからの接続リクエストが優先されるので、いろんな機器につなぎ換えたい時には非常に便利だ。

イヤホンに付けられたセンサーの挙動も面白い。耳に差し込むハウジング部の表と裏にある黒い丸が、輝度センサーになっている。音楽を聞いているときに片側だけ外すと、音楽の再生が止まる。コンビニのレジで買い物するときなど、ちょこっと人の話を聞きたいときに便利だ。

ハウジング部の裏表の黒い丸が輝度センサー

ハウジング部の裏表の黒い丸が輝度センサー

この輝度センサー、両方が塞がらないと音楽の再生が始まらないので、手のひらに載せて片側が塞がるだけでは動作しない。ただしポケットの中などに入れると、耳に差し込まれたものと誤動作して音楽の再生が始まることがある。

加速度センサーもあるので、AirPodsを2回タップするとSiriが起動できる。Siriの代わりに音楽の再生・ポーズにも切り換えられる。再生停止は片側を外せば止まるので、次に制御したいのは音量だろう。Siriに「音量を上げて」「音量を下げて」と言えば、1ステップずつ音量が調整できる。また「音量を半分にして」というと、フルボリュームの半分にセットできる。今聞いている音量の半分ではない点に注意して欲しい。

そのほか、「音量を半分にして」「音量を1/4にして」も有効だが、「音量を1/3にして」は誤動作するようだ。「音量を3/4にして」もうまく動かなかった。もっともこのあたりはクラウド側の音声認識の問題なので、そのうち正確に動くようになるかもしれない。

外れそうとか耳からうどんとか色々言われるAirPodsだが、多くの人はこのような最新のコアテクノロジーが搭載されていることを知らない。ハイテク技術を表に出さず、ユーザーの利便性として溶け込ませているというのが、アップルの流儀なのだろう。

【関連リンク】
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小寺信良

小寺信良

AV機器評論家/コラムニスト。デジタル機器、放送、ITなどのメディアを独自の視点で分析するコラムで人気。メルマガ「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」も配信中。

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