スマートフォンや携帯ゲーム機の普及は、娯楽にも大きな変化をもたらしました。1人で熱中できる魅力的なゲームやコンテンツが数多く登場し続けている一方で、家族や友達と同じゲームを楽しむ機会は、昔に比べてかなり減ってきたのではないでしょうか。
かくいう筆者の家庭も、私、妻、子どもたちがそれぞれ1つずつの画面に向かってテレビ番組や動画を見たり、ゲームで遊んだり。同じ屋根の下にいるのに、楽しみを共有する時間がとても少ないように感じられます。一抹の寂しさを覚えるのは、筆者が歳をとってきたからでしょうか……。
ひとつの救いは、娘がトランプやカルタといったカードゲームが好きなこと。習い事などがない休日には娘から誘ってくれるのですが、2人で遊ぶのは意外な困難をともないます。ババ抜きではどちらがジョーカーを持っているのか簡単にわかってしまいますし、カルタは読み札を読み上げる人が必要。神経衰弱は2人でも遊べますが、なかなかペアができずに文字通り衰弱が激しく、長続きしないのが悩みどころです。
子どものほうから遊びに誘ってくれる時間はとても貴重なもの。何か2人でも遊べるゲームはないものかと探してみたところ、新しいボードゲームが発売されるという情報をキャッチ。早速購入してみました!
今回購入した「アクロティリ」は、ホビージャパンが取り扱う2人対戦のボードゲーム。あえて表現すれば、「モノポリー」や「人生ゲーム」に近いジャンルのゲームです。
妻に「なにそれ、お菓子?」と言わせたアクロティリのパッケージ
ゲームの目的は、エーゲ海に眠る神殿を発掘すること。「テーラ」という島を基点に、マップから集めた資源を元手に資金を稼ぎ、地図を購入して条件に合う場所を探し出し、神殿を発掘していきます。
プレイヤー自身がルールを理解していかなければならないため、丁寧なチュートリアルから始まる最近のデジタルゲームに慣れていると、プレイし始めは少し戸惑います。ですが、「資源集め」→「地図購入」→「神殿発掘」という一連の流れを把握するにつれて、スムーズにターンをこなせるようになります。
ちなみに調べてみたところ、エーゲ海の観光地である「サントリーニ島」の別名がテーラ島というそうで、三日月型の形もそっくり。アクロティリという地名も実在し、近くには遺跡も見つかっているそうなので、この地をモデルにしているのでしょう。
内容物の一式。インターフェイスやアイテムといったゲームのすべての要素が物理的に実在するためか、ボリューム感があります
プレイヤーのどちらかが6つ目の神殿を発掘するとゲームは終了ですが、先に6つ見つけたら勝てるとは限らないのがアクロティリのおもしろいところ。詳しい勝利条件は後述しますが、終了時点での手持ちの資金、神殿の場所につながった地図の難易度、特殊なカードの効果などから算出された得点を比較して、より高得点のプレイヤーが勝利します。
そのため、見つけるのが簡単な地図ばかり選んでいたり、持ち札を意識せず闇雲に発掘したりすると、先に6つ目を発掘できても勝てない場合があります。勝利を目指すには、難易度の高い条件にも挑まなければならない。こうした要素も、このゲームの魅力です。
ひとつ見落としていたのは、ゲームの対象年齢です。ルールに対する理解力などから決められていると思われますが、アクロティリは14歳以上が対象です。実際に遊んでみてわかりましたが、確かに小学生の娘にはまだ少し早かったかもしれません。筆者と娘の予定も合わなかったので、今回は受験を終えてリラックスモードの息子に付き合ってもらいました。
「アクロティリ」はターン制のゲームです。まずは各ターンの大まかな流れを見てみましょう。なお、本記事ではゲームの雰囲気をお伝えすることに専念して、細かなルールや詳細な準備の解説などは省略しています。あらかじめご了承ください。
プレイヤーの手元には、「プレイヤーボード」という1枚の大きなカードが配布されます。ここには各ターンに実行できる「アクション」と呼ばれるプレイヤーの行動についての情報や、後述する「資源キューブ」の置き方なども記されていて、ちょっとしたヘルプの役割があります。
また、プレイヤーボードには神殿の駒が6個置かれています。地図をもとに神殿の場所を見つけたら、ここから駒を取ってマップに置くことで、神殿を発掘したことになります。発掘した神殿が増えるにつれて1ターンに実行できるアクションの数も増えていきます。
筆者のプレイヤーボード。神殿を発掘するほどアクションの回数が増え、ゲームの進行スピードが増すようになっています
ターンの最初には、発掘の基点となる「テーラ島カード」の周辺に「地形タイル」を配置します。ひとつの地形タイルにはいくつかの島の断片が記されており、テーラ島カードやほかの地形タイルの隣に並べると、周辺に点在する島々の形が明らかになります。こうして姿を見せた島のどこかに、神殿の眠る場所を見つけていくのです。
地形タイルは各ターンの最後に1枚引き、次のターンの最初に配置します。ゲームが進むにつれてどんどんタイルが増え、マップの規模が拡大していきます。
地形タイルには4種類ある「地勢アイコン」のうち、どれかひとつが印字されています
地形タイルを置いたら、その上に発掘資金を確保するために必要な「資源キューブ」を配置します。資源キューブは「青」「灰色」「オレンジ」「緑」の4種類で、地形タイルに印字されている「地勢アイコン」の色に対応しています。
地形タイルに配置すべき資源キューブは、地勢アイコンと同じ色がひとつと、別の色がひとつの合計2つ。地勢アイコンと同じ色の資源キューブはアイコンがある陸地に置き、別の色の資源キューブはそれとは別の陸地の上に置きます。
「テーラ島カード」や配置済みの「地形タイル」の隣に新しい地形タイルを並べたら、印字されている地勢アイコンに対応する資源キューブを1つと、それとは別の資源キューブをひとつ配置します
地形タイルと資源キューブを置いたら、プレイヤーボードに記されているアクションを実行します。
アクションには回数制限のある「(海路や陸路の)移動」「(資源の)荷積み」「神殿の発掘」「地図カードの購入」「神託を受ける」の5種類と、回数制限のない「資源の売却」「資源の荷下し」の2種類があります(括弧内は筆者による注記)。
ゲームの目的は「6つの神殿を相手よりも先に見つける」ことですが、神殿の発掘には1回3ドラクマ(ドラクマはゲーム内の通貨単位)以上の資金がかかります。初期資金は2ドラクマだけなので、神殿を発掘するのに先立って資金を集めなければなりません。
資金はテーラ島で資源キューブを売却すると得られます。資源キューブが置かれている島を目指して埠頭から埠頭へと「移動」し、船に資源を「荷積み」したらテーラ島まで戻り、「資源の売却」をする。これが、ゲーム内で資金を稼ぐための一連の流れとなります。
ちなみに、プレイヤーの位置を示す駒は船の形をしていますが、白い線で示された「海路」だけでなく、島の上を通る「陸路」を通過することも可能です。海路または陸路をひとつ(空荷の船は2つ)通過するごとに、アクションをひとつ消費します。
船には一度に3個までの資源キューブを積むことができます
資源キューブの売却価格は「市場ボード」上の資源の数で決まります。市場の流通量が少ないほど高値で売却でき、流通量が多いと売却額も下がります。効率よく資金を稼ぐなら、流通量の少ない資源を優先的に集めるといいでしょう。
資源キューブを売却したら「市場ボード」の対応する色のマスに右詰めで置いていきます。このとき、キューブを置いたマスに書かれている額のドラクマを受け取ることができます
資金がたまったら、手持ちの「地図カード」をもとにして神殿の眠る場所を探します。
地図カードには難易度に応じて「容易な地図(銅)」「通常の地図(銀)」「困難な地図(金)」の3種類があります。高い難易度の地図ほどゲーム終了時に得られる得点が高く、発掘に必要な資金も高額です。
見つけやすい「容易な地図」ばかり解いていると得点が足りずに負けてしまうこともあるので、ゲーム終盤では「困難な地図」に挑む決断も必要です。
左から「容易な地図」「通常の地図」「困難な地図」。地図の難易度が上がるほど高額な発掘資金(カードの左上に記載)が必要ですが、得られる得点(右上に記載)も高くなります
ここがこのゲームのポイントなので、少し詳しく説明しましょう。地図カードを見ると、中央の神殿を取り囲むように、地形タイルに印字されている地勢アイコンが示されています。プレイヤーはこの地図の条件に合致する島をマップ上から見つけ出し、そこに自分の神殿の駒を配置することで、神殿を発掘することができます。
たとえば下の画像の地図カードの場合、マップ上のどこかにある「オレンジ」の地勢アイコンを左に見たときに、「青」が下、「緑」が右の方向に見える場所を探し出せれば、そこに神殿の駒を置くことが可能です。
地勢アイコンの位置は、神殿を発掘する(=自分の神殿の駒を置きたい)島から見て厳密に真上や真左になくてもかまいません。少しでも上下や左右にずれていれば、偏った位置にあっても大丈夫です。
「容易な地図」の読み解き方の一例。厳密にはプレイヤーから見たマップの方向と地図カードの方向を合わせる必要もあるようなのですが、今回は地図カードを好きなように回転させてもOKとしました
「発掘」という言葉からは少し堅苦しい印象を受けますが、実際には「地図の条件を満たす物件探し」といった感覚です。また、ターンの最初に置く地形タイルの場所や向きを工夫することで、手持ちの地図カードにとって都合のいい地勢アイコンや島の配置を作り出すことも可能です。
なお、神殿が発掘できるのはひとつの島につきひとつだけで、中央のテーラ島では発掘できません。空いている島をいち早く確保する駆け引きも重要です。
重宝するのが、アクションのひとつである「神託を受ける」です。このアクションでは、アクション数をひとつ消費することで、目的の地勢アイコンを持った地形タイルが出るまで山札からタイルを引き続けることができます。
たとえば、手持ちの地図カードの条件を満たすには「水」の地勢アイコンがあと1つ必要だったとしましょう。ターンの最後にランダムに地形タイルを引いていたのでは、「水」の地形タイルがいつ手に入るのかわかりません。
ですが、神託を受ければ、必要な地形タイルがすぐに入手できます。次のターンに入手した地形タイルを望みの位置に置くことで、難易度が高い地図カードの条件を積極的に作り出し、高得点の神殿を発掘できるようになるのです。
神託を受けて「青」の地勢アイコンがある地形タイルをゲット。地図カードが示す場所を自分で作れるのがおもしろい
遊び始めた当初は親子揃ってルールブックにかじりつく状態でしたが、お互い数ターンも経った頃にはだんだんと余裕が生まれてきました。息子も慣れてきたようで、地形タイルの上に置く資源キューブを選ぶときに、あえて市場カード上の数が少ないものを選んでいます。わざと市場価格を高騰させ、高値の資源を売却することでドラクマを荒稼ぎするテクニック。これが市場原理というやつか……。
そうこうするうちに、筆者が本プレイ初の神殿を発掘。地形タイルの数が少ないうちは、地勢アイコンが3つあればいい「簡単な地図」でさえも、条件を満たす場所がなかなか見つかりません。
記念すべき神殿発掘第一号(中央上の青い神殿)と、その地図カード
おかしかったのは、拠点となるテーラ島の目の前にある島。気が付いたら埠頭がひとつも存在しない、文字通りの孤島になってしまいました。こうなると発掘はもちろん、配置された資源の回収もできません。
筆者「どうするんだよこれ、目の前なのに行けない(笑)」
息子「俺のせいかよ(笑)資源取れないじゃん!」
地形タイルを置くときには注意が必要なんだな、と2人揃って学習しました。
埠頭がないので訪問できない島。テーラ島(右側)の目と鼻の先にあるのに!
神殿の発掘を進めると、各ターンで実行できるアクション数が増えるだけでなく、「目的カード」という強力なカードを最大2回入手できます。目的カードには「地勢アイコンのない島にある、あなたの神殿ひとつにつき4点」といったように特殊な条件が示されていて、この条件を満たすことでゲーム終了時の得点を増やせます。
目的カードの内容は相手に見せる必要がありません。内容を把握し、コッソリと条件に合う島を作り出し、まんまと4点をゲットして満足の筆者。条件次第では神殿ひとつにつき6点が加算される場合もあるので、ぜひ条件を満たしたいところです。
4点ゲットでホクホクの筆者。しかし息子も似たようなことを企んでいるはず
5つ目の神殿を発掘すると各ターンのアクション数も最大の「6」に増えるので、ゲームのテンポも上がります。一時は筆者が神殿3つ分リードしていましたが、息子の追い上げも激しく、気付けば互いに5つ発掘の状態で並ぶことに。
筆者「なんだかいい勝負になってきたな……」
息子「おもしろいね、このゲーム」
あとひとつ発掘すればゲーム終了ですが、互いに相手の目的カードがわからないので、点数の低い「容易な地図」に頼るわけにもいきません。ここで筆者は「困難な地図」を購入し、一気に勝負をかけました。
購入した「困難な地図」のカード。地勢アイコンの数がエグい
合計7個の地勢アイコンにとまどいましたが、まだ神殿が建っていない島をしらみつぶしに検討したところ、条件を満たす物件が1か所だけ見つかりました。
ここだ! 6個目の神殿を「発掘」
海路と陸路をいくつも経由し、そのターンは移動だけで終了。次のターンでとうとう6つ目の神殿を発掘するに至りました。後攻の息子がアクションを終えるのを待ち、2時間に及んだゲームもついに終了です。
「終わったな」「おつかれ!」。そんなことを言いながら写真を撮ったら息子から拍手が
神殿ひとつ差の白熱した展開でしたが、得点はどうなる!?
最後に互いの得点を計算します。計算自体は簡単で、「発掘できた地図カードに記されている得点」「条件を満たせた目的カードの得点」「最終時点での所持金からの得点(10ドラクマにつき1点)」を合算するだけです。
注意したのは目的カードの得点でした。確認するのが難しい条件のカードもあるので、間違えないよう慎重にチェックを進めます。
地図カード、所持資金、目的カードを整理したところ(右が筆者、左が息子)
計算結果は以下のようになりました。
●筆者
地図カード…16点(7点×1、3点×2、1点×3)
ドラクマ…0点(7ドラクマ所持)
目的カード…10点(6点×1、4点×1)
合計…26点
●息子
地図カード…7点(3点×1、1点×4)
ドラクマ…0点(9ドラクマ所持)
目的カード…8点(3点×2、2点×1)
合計…15点
11点差で筆者の勝利となりましたが、勝敗を分けたのは最後の神殿発掘につながった大勝負でした。
実はプレイ前の準備段階で目的カードが1枚ずつ手に入るのですが、筆者はたまたま「テーラ島から陸路2つちょうど経由する場所にあるあなたの神殿1つにつき6点」という、一番得点が高い目的カードを持っていました。ただ、準備の時点ではその意味をよく理解できていなかったので、始終伏せたままで存在を忘れていたのです。
これが問題の目的カード。そういえば持ってましたね……
6つ目の神殿は「困難な地図」が示す場所で発掘したのですが、実はこの島が「テーラ島から陸路2つちょうど経由する場所」だったのです。そのため、地図カードの7点に加えてこの目的カードの6点も加算されたため、最後の神殿1つが13点を叩き出しました。
もしも最後の神殿を「容易な地図」で済ませていたら1点しか加算されず、逆に1点差で息子が勝っていたかもしれません。
この神殿だけで筆者の得点の半分を占めることになるとは、計算するまで気が付きませんでした
慣れるまでが少し大変だったアクロティリですが、気が付けば筆者も息子もプレイに没頭。難しい地図カードに一致する場所を見つけたときの嬉しさや、少しずつ広がっていくマップのスケールから受けるワクワク感、難解な目的カードの条件を満たしたときの達成感などがとても楽しいひとときでした。
スマホだけ、ゲーム機だけで遊べるデジタルゲームとは違い、アクロティリは遊ぶのにある程度のスペースが必要ですし、遊ぶ前には準備、遊んだら後片付けと、それなりの手間もかかります。
しかし、駒や地図といったアイテムに触れたり、マップ上を動かしたりといったアナログゲームならではの物理的な性質による効果なのか、デジタルゲームとはまた違った没入感を筆者は感じました。
駒は木でできているようで、プレイ中に漂う香りも心地よかったです
今回はいわゆる初見の上に、写真撮影をはさみながらのプレイ。そのためゲーム終了まで2時間かかりましたが、本来のプレイ時間は約45分。準備や片付けを含めても1時間とかからずに、サクッと遊べるところも魅力的です。
なお、ホビージャパンからは今回紹介したアクロティリのほかにも、いろいろなボードゲームが発売されています。価格はゲームにより2,000円から6,000円程度。おもしろそうなテーマのゲームがあったら、思い切って購入してみてはいかがでしょう?