いいモノ調査隊
研ぎ方もこれでバッチリ!

包丁の手入れはどうやるの? 「砥石」の選び方から料理人に教わった

半年前から、朝晩の食事はなるべく自炊するようにしている。妻の分と2人前。筆者1人だと肉一辺倒になりがちだが、食べてくれる相手がいると魚や野菜も使おうという気になる。

毎日料理をするようになってわかったことは、片栗粉は便利だということ。そして、包丁は割とすぐへたるということだ。安物だからか、すぐに切れ味が悪くなってしまう。

料理人は砥石をこう使う

そこで、砥石(といし)を買おうと思ったのだが、砥石といってもピンキリで、ビギナーに適したものがよくわからない。あと、そもそも研ぎ方もわからない。ここはプロに聞いてみよう。


今回お話を伺ったのは、銀座「吟漁亭 保志乃」のマスターである片山さん。料理人一筋40年、銀座に店を構えて十数年のベテランで、新鮮な魚介を駆使した日本料理を得意とする。

お店は銀座7丁目、ソニー通り沿いにある。平日は焼き魚、煮魚、刺身を中心としたランチも好評なのでぜひ!

お店は銀座7丁目、ソニー通り沿いにある。平日は焼き魚、煮魚、刺身を中心としたランチも好評なのでぜひ!


―― さっそくなんですが、プロの料理人の方ってどんな砥石を使ってるんでしょうか?

片山さん(以下、敬称略)「砥石って、大きく分けて3種類あるんですよ。荒砥、中砥、仕上げ砥ですね。荒砥は目が粗いやつで、仕上げ砥は細かい粒子でできたもの、中砥はその中間です。よく使うのは中砥ですが、刃こぼれしたり丸刃になったりすると荒砥で大まかに直し、中砥で刃を立てて、最後に仕上げ砥で磨くっていうのが一般的かな」

―― 日々の手入れは中砥で十分だけど、特に切れ味を出したいときには仕上げ砥を使うという感じですか?

片山「カミソリくらいまで刃を立てたいときは、仕上げ砥でやります。ただ、切れ味にこだわりすぎると刃がもろくなってしまって、ちょっと身の硬いものなんかを引くとすぐに刃こぼれしてしまいます。だから仕上げ砥を使うのは、ふぐの薄造りとかそういう料理のときだけですね」


―― では、普段はどれくらいの頻度で、どんなメンテナンスを?

片山「休憩のときや仕事後、切れ味が悪くなっていれば少し研いで刃をつける。普段はその程度ですね。ただ、研がない場合でも、毎日クレンザーで磨いてサビは落とします。サビてしまっていると、もうその日は使えなくなってしまいますから。粒子があるクレンザーで磨いて、乾いた手ぬぐいやタオルで水気を切ってからしまいます」

―― じゃあ、毎日必ず研がなきゃいけないってわけではないと。

片山「そうですね。たとえばその日に魚料理が多く出れば包丁を使い込むので、切れ味が落ちます。同じ包丁を2本持っているので、1本目の切れ味が悪くなったら包丁を変えて、もう1本を研いでおくという感じですね。先ほども言ったように、あまり研ぎすぎると強度がなくなるのであまりよくないんですよ」

―― 切れ味をキープさせつつも、大事に使われているんですね。

片山「そうですね。1本の包丁を20年くらい使います。最後は出刃包丁がペーパーナイフくらいのサイズになりますからね。小さくなったら小さい魚をさばいたり、お新香用にしたり、包丁のサイズに合わせて使い方も変えていきます」

―― 小さくなっても切れ味さえあればずっと使えますもんね。

片山「鋼さえ残っていれば、包丁は切れるので」

近年の主流は「減らない砥石」

―― ちなみに、砥石の材質ってどんなものがあるんですか?

片山「今はダイヤモンド質のものが多いです。従来の砥石って使っていくうちにすり減っていってしまうんですが、ダイヤモンド質のものは『減らない砥石』といわれています。表と裏で荒砥と中砥を兼ねていて、どんどん削れてしまう。刃が早く作れるぶん、包丁の減りも早いですね。あと、石の素材でも最近はすり減りにくいものが主流です」

―― お店ではどんな砥石を?

片山「ダイヤモンド質のものも、普通の石のものもあります。減らない砥石と減る砥石、両方を使い分けています」

―― どう使い分けているんですか?

片山「時間がなくて急いで刃を作らないといけないときは減らない砥石を使いますが、そうでないときはやわらかい石で研ぎます。減らない砥石は便利ですが、包丁にはあまりやさしくないので。大事にしている包丁も、やわらかいほうの砥石を使いますね」

―― では、家庭で使うレベルの、さほど高価でない包丁を研ぐのであれば「減らない砥石」で十分ですかね。

片山「減らない砥石か、中砥で十分だと思います」


―― 大事な包丁にはやわらかい砥石を使うということなんですが、料理人の方ってやっぱり「ここ一番はこの一本」みたいな包丁を持っているものなんですか?

片山「持っている人は多いです。包丁集めが趣味みたいになっている人もいますし、いい刃文にこだわる人もいます。日本刀と一緒ですよね。カウンターのうしろにコレクションとして飾ったりしているお店もあります」

―― それは、普段は使わない?

片山「少なくとも、仕込みなどでは使わないですよね。お客さんの前に立つときに、ある意味の演出として使ったりすることはあると思いますが」

―― 片山さんも、包丁集めてるんですか?

片山「コレクションしているわけではないんですけど、自然と集まっていきますね。駆け出しの頃からしばらくは、月1万円は包丁にかけようと決めていました。すると、20本、30本はすぐにたまっていくんですよ」


―― 毎月必ず、1万円ぶん包丁を買うんですか?

片山「毎月1本買うというよりは、包丁屋に毎月1万円ずつ渡しておく。すると、定期的に『こういう包丁あるよ』って持ってきてそれを受け取るという感じですね。昔はそういう出入り商人がいたんですよ」

―― それ、すごい関係性ですね。

片山「故障したときの修理代、メンテナンス料も含めての1万円という感じです。あとは高い包丁を受け取ることもあるので、利息なしのローンみたいな意味合いもあります。料理人と商人、お互いの信頼のみで成り立つ取引ですね」

―― 包丁だけでなく、砥石にもこだわる人はこだわるんでしょうか?

片山「いますね。産地にまでこだわる人もいます。京都の山でとれる石は昔から有名で、1つ数百万円するものもあります。テレビの鑑定番組に出るような、貴重な砥石ですね。美術館に寄贈されるような、骨董(こっとう)的価値のある砥石もありますよ。ただ、家庭で使う場合、洋包丁やステンレスの包丁であれば2,000〜3,000円のもので十分です。少しこだわるなら、5,000〜1万円程度のもの。一生ものとして使うなら、ダイヤモンド質の2万円くらいのものがいいと思います」

研ぎ方のコツを教わった

―― 研ぎ方のコツなんかがあれば教えていただきたいんですが……。

片山「いいですよ。実際にやってみましょうか」

こちらがダイヤモンド鉱石の砥石。片側が荒砥で、もう片側がつるつるした中砥になっている

こちらがダイヤモンド鉱石の砥石。片側が荒砥で、もう片側がつるつるした中砥になっている

まずは砥石を水で十分にぬらし

まずは砥石を水で十分にぬらし

片刃の包丁の刃の部分を砥石に押し付けるようにして

片刃の包丁の刃の部分を砥石に押し付けるようにして

シュッ、シュッと、押し引きする。あまり強く動かさず、押すときにやや力を込める程度がいいらしい。刃全体を10回ほど研いだら……

包丁を裏返し、円を描くように研いで刃の裏にできた「バリ」をとっていく

包丁を裏返し、円を描くように研いで刃の裏にできた「バリ」をとっていく

刃の裏のひっかかりがなくなってつるつるしたらOK。刃を10回研いだら裏返してバリとり、これを数回繰り返す。両刃の場合は両側の刃を均一に研いでいく

「黒い水」は洗い流さないのが正解!

なお、研いでいるうちに水が黒くなっていくが、これは砥石が擦れて出てきた小さい粒子。その粒子と一緒に研ぐと、早く、スムーズに研げるそうだ。なので、黒い水が出てきても、すぐには洗い流さないこと。

ちなみに、仕上げ砥で繊細にやった場合、「腕毛までそれる」とのこと。ただ、そこまで刃を立てると、身の硬いものを切ったときにすぐ欠けてしまうという

さじ加減が大事なのだ。

というわけで、プロのアドバイスをふまえ、さっそく砥石を使ってみることにした。
購入したのは、荒砥と中砥がついたダイヤモンド鉱石だ。

こちらが荒砥

こちらが荒砥

ひっくり返すと中砥。ひんやり&つるつるで気持ちいい。これのでかい板があったら全裸で寝そべりたい

ひっくり返すと中砥。ひんやり&つるつるで気持ちいい。これのでかい板があったら全裸で寝そべりたい

研ぐ前に、まずは数か月使い続けて劣化した包丁で魚を切ってみた

研ぐ前に、まずは数か月使い続けて劣化した包丁で魚を切ってみた

すっと刃が入らないため、何度も押し引きをして身がぐずぐずになってしまう……。

というわけで、まずは荒砥で刃を磨き

というわけで、まずは荒砥で刃を磨き

中砥でバリをしっかりとる

中砥でバリをしっかりとる

うむ、心なしか輝きが増したような気がしなくもない。攻撃力が3くらいUPした感じだ

うむ、心なしか輝きが増したような気がしなくもない。攻撃力が3くらいUPした感じだ

先ほどと同じ魚を切ってみると……。

おお! するっと刃が入る。さっきと全然違う!

おお! するっと刃が入る。さっきと全然違う!

トマトも、ものすごくスッススッス切れる

トマトも、ものすごくスッススッス切れる

スッススッス〜〜♪

スッススッス〜〜♪

一滴の汁すらもらすことなくカットできた。トマト自身も、心なしか余裕をこいているように見える。切られたことに気付いていないのかもしれない


切った刺身を食べ比べると、味の違いがよくわかる。
研ぐ前の包丁で切った刺身は切り口がざらっとしていて、あまりおいしくなかった(これまではうまいうまいとありがたがって食べていたわけですが)。研いだ後のほうが明らかにおいしかった……。

いやはや、おそるべき「研ぎ」の威力よ!

ちなみに、家庭では砥石ではなくシャープナー(包丁研ぎ器)を使っている人が多数派と思われるが、切れ味がより長持ちするのは砥石のようだ。何より砥石を使うことにより、自分が料理の達人になったような気分になれるのでおすすめである。

【取材協力】
吟漁亭 保志乃
https://www.hoshino-gin.com

榎並紀行

榎並紀行

雑誌やウェブコンテンツを製作する「やじろべえ」という会社で働いています。だいたい19時に帰って22時に寝ます。https://twitter.com/noriyukienami

紹介した製品の最新価格・クチコミをチェックする
関連記事
ページトップへ戻る