Edifier(エディファイア)から、多機能なアクティブスピーカー「ED-QR65」が発売された。多機能と言っても、音にまつわること以外の機能が充実していて、何より特徴的なのは“光る”こと。一見色物めいたこのスピーカーをガチで聴いてみよう。
イルミネーションがまぶしい「ED-QR65」。しっかり消灯もできる
「ED-QR65」の本体色は試聴した黒と写真の白の2種
ノートPCなどを中心にデスクトップで楽しめるPCオーディオ。最近の人気の高まりに応じて、コスパにすぐれたお手頃な機器から本格的なオーディオ再生をも見据えた高級モデルまで、製品の幅も広がっている。少ないコストとちょっとしたスペースでスタートできるエントリークラスの製品はオーディオ入門としてもぴったりだ。ただし、さまざまなメーカーがたくさんの製品を発売しているので、音のよい製品を探すのが大変という一面もある。
Edifierは1996年創立のブランドで、安価ながらもコストパフォーマンスの高い製品を発売してきた。当時はUSB DAC内蔵のアクティブスピーカーやBluetoothスピーカーが注目を集め始めた時期で、その後PCオーディオが盛り上がってくると同時に、日本でも注目されてきた。PCと組み合わせて使うことを想定したコンパクトなスピーカーを中心に展開されてきたが、歴代のモデルは音のよさでも評価が高い。
「ED-QR65」はその最新モデル。いちばんの特徴は外観のデザインだろう。スピーカーユニットを取り付けたバッフル面は、なんとLEDによるイルミネーション機能が盛り込まれたミラー仕上げのアクリル板。ミラー加工で何重にもライトの反射が重なるので見る角度によって表情が変わる。イルミネーションもさまざまな色、発光パターンが選べるなどゲーミングスピーカー的な機能ではあるがデザインが洗練されているので、未来的なデザインのコンセプトモデルのようにも見える。
「ED-QR65」を正面から見たところ。バッフル面の周囲にイルミネーションがあり、発光する
斜めから見ると、ミラー加工のせいでイルミネーションの光が何重にも重なり、ハイテクムード満点の表情
イルミネーションの光量や発光パターンは手軽に変更可能。アプリで詳細な調色などもできる
外観のデザイン優先のスピーカーと言うと音質が心配になる人も少なくないかもしれないが、「ED-QR65」は音質面の設計もなかなか本格的だ。ツイーターは32mmのシルクドームで、ウーハーは70mmのアルミ振動板を採用。さらにフルデジタルプロセッシングのオーディオ回路を内蔵し、それぞれのユニットへの帯域分割(クロスオーバー)もデジタルで処理する仕組みだ。本体内部は迷路のような構造になっており、これを「Mazetubeバスレフチャンネル」と呼んで低音の質を高める工夫をしている。
現在、さまざまなオーディオメーカーからアクティブスピーカーが数多く発売され、音の点でも高く評価されるモデルが増えている。内蔵するアンプは多くがコンパクトで効率のよいD級アンプだ。「ED-QR65」もそうだろう。
オーディオアンプの世界ではまだまだA級やAB級回路のアンプが多く、ユーザーからの人気も高い。アクティブスピーカーのアンプはD級なのに音がよいと言うと少し意外に思われるかもしれない。
その理由のひとつはアンプ自体というよりも、クロスオーバー回路なども含めてデジタル化できることに求められる。「ED-QR65」もアクティブクロスオーバー回路を含めたフルデジタル駆動。途中で不要なアナログ信号への変換がないため、原理的に損失を抑えられるというわけだ。
入力された音声信号は、アクティブクロスオーバー回路で帯域分割されたあと、ツイーター(上側の高域ユニット)とウーハー(下側の低域ユニット)に送られ、それぞれ15Wと20Wのアンプで駆動される。これはアクティブバイアンプと呼ばれる方式だ
なお、クロスオーバー(帯域分割)回路とは2つのユニットが高域側と低域側を分担するために、それぞれに音を割り当てる回路のこと。
基本的には入力信号の周波数を低域と高域に分割するのだが、それに加えて音の出るタイミング(位相)やタイムアライメント補正なども行う。これをアナログ回路で作ると回路が大規模になってしまうが、デジタル処理ならばコンパクトで高精度な処理が可能。最近注目のアクティブスピーカーの高音質は技術の進歩も理由と言えるだろう。もちろん、創業以来アクティブスピーカーを中心に開発してきたEdifierにはそのノウハウが十分あり、そうした技術の積み重ねが「ED-QR65」にも生かされている。
低域強化のための「Mazetubeバスレフチャンネル」イメージ。本体中央にパイプ状の音道が設けてあり、背面のポートまで続いている
カットモデルのイメージ。「TurbMuffエアノイズ抑制テクノロジー」と呼ばれる風切り音を抑制する技術も使われているとのこと
面白いのは内部構造で、背面にあるバスレフポートまでの音道が迷路(=maze)のような構造を持った長いパイプ(音道)になっているのだ。この独自構造が豊かな低音再生を可能にしている。パイプはエンクロージャーの中心あたりに配置されていて、スピーカーユニットのある前側とデジタル処理回路やアンプのある後ろ側を分割している。スピーカーユニットの後ろ側から出る音波や振動などの影響を低減するための構造だ。実売で5万円ほどの価格のスピーカーとしてはあまり例がないくらいに本格的な作りになっている。
スピーカーのR(右)側に入力端子などが集約されていて、電源もこちら側に接続する。L(左)側はR側からの専用接続端子があるだけ。このあたりの作りは一般的なアクティブスピーカーと同様。このため、R側には電源インジケーターのほか、音量調整ツマミやイルミネーション用ツマミがある。
天面や側面の仕上げは革張り調の仕上げとなっていて、見た目も独特。手触りがよいし汚れなどにも強い仕上げになっている。イルミネーションだけでなく全体の作りや質感もかなりすぐれていると感じた。なお、カラーは取材でお借りしたブラックのほかホワイトの計2色が用意されている。
R側の右側面。操作用のボタン類はここにある。上から電源ボタン、音量調整ツマミ、イルミネーション操作(明るさ)ツマミ。デスクトップに置けば、手の届くところに音量調整機能がある状態になり、とても使いやすい。イルミネーションは即座に消灯も可能だ
R側の左側面。ブランドの標語「A Passion for Sound」のバッジがある
背面にはバスレフポートがあり、R側に入出力端子が集約されている。入力はアナログ音声用のRCAのほか、96kHz/24bit対応のUSB Type-A端子(USB Type-A to Type-Aケーブル付属)。出力としてサブウーハー用出力(3.5mmステレオミニ)がある。下部のUSB Type-A、USB Type-C(2系統)はスマホなどの充電用端子だ
「ED-QR65」はGaN FETを採用した高速充電機能を持っており、スマホなどの充電や電源供給が可能。USB Type-C端子はそれぞれ最大65W、USB Type-A端子は最大60Wの給電に対応。ただし3ポート同時使用時は合計で最大60Wの給電となる
底面にもゴム系の樹脂による脚部があり、振動の遮断などもきちんとケアしているのは立派。これに加えてデスクトップ上で使いやすいスタンドも付属する。アルミ板によるシンプルな形状ながら強度も十分。上向きになるように適度な角度がついている。
底面には樹脂製の脚部も備わる
デスクトップ使用時に便利な専用スタンドも付属する
「ED-QR65」はアナログ入力/USB入力/Bluetoothの3つの入力ソースが選択できる。BluetoothはSBCとLDACに対応している。今回は「Mac mini」と付属のUSBケーブルで接続し、デジタル入力で試聴した。再生アプリは「Audirvana ORIGIN」だ。USB入力時は最大96kHz/24bit(PCM)まで対応。
また、試聴はデスクトップ上での再生を意識して薄型テレビ用のラックに1m強の間隔で設置。試聴位置も1m程度の距離で聴いている。
小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラによる「奇蹟のニューヨーク・ライヴII ベルリオーズ:幻想交曲」から第4楽章と第5楽章を聴くと、アコースティック楽器の音色も豊かに出てくっきりとした音が楽しめた。
驚くのは低音の力強さ。この曲は大太鼓がかなり力強く鳴るのだが、その音をエネルギーたっぷりに鳴らす。小型スピーカーにありがちな量感たっぷりなだけのものにはならず、ローエンドの伸びもなかなか頑張っているし膨らみすぎない。だから力強く太鼓をたたいたときの音の立ち上がりや、その響きがゆっくりと減衰していく様子もよく出る。ティンパニの連打ももたつかないのは、小型スピーカーでは珍しい質感のよい低音だ。
個々の楽器の音色を聴いていくと、音色はニュートラルで自然な感触だがやや太書きのタッチでくっきりはっきりと音楽を描くタイプ。もう少しバイオリンの弦の擦る感じや高域の艶なども欲しくなるが、実売5万円のスピーカーとしてはかなり優秀だ。小型スピーカーのよさである音像定位のシャープさもあり、ホールの広さや奥行きなどもしっかりと出て音場感もなかなかよい。
音量を上げればスケール感や迫力も十分に出るが、一般的な音量でもスケールがやや小さくなるもののエネルギー感や低音が痩せてしまうようなこともないので、プライベートルームなどの比較的小さい部屋でも使いやすいだろう。
宇多田ヒカルの「BADモード」などを聴いてもボーカルの定位はしっかりと浮かび上がるし、EDMのような量感たっぷりの低音に包まれるような感じも豊かに出る。デスクトップ環境に近いコンパクトなスペースでの試聴でも豊かなステレオ感や立体的な奥行きをきちんと楽しめる。
この秘密は微小な音の再現性がよく、しかも大音量まで力強く鳴るダイナミックレンジ(音の大小の幅)の広さにあるだろう。小型スピーカーではダイナミックレンジが狭くなる傾向があるのでこぢんまりとした印象になりやすいが、「ED-QR65」には小型スピーカーらしからぬ鳴りっぷりのよさがある。このあたりはEdifierのスピーカーに共通したよさでもある。
このほかさまざまなジャンルの曲を聴いたが、アニメソングを聴いてもメリハリのある楽しい音になる。低音がしっかりとしているのでリズム感がよく、無理に精細さを欲張らずに聴き心地のよいバランスにしているせいもあり、ガチャガチャと耳障りに感じるようなこともなかった。
エントリークラスのスピーカーは製品による音質の差は大きい。聴いてがっかりした製品も少なくないが、驚くほどよい音を聴かせてくれるものもある。すぐれた製品を探すのはある意味宝探しのような難しさがある。
Edifierの「ED-QR65」はもちろん後者の満足度の高いモデルであるし、オーディオ的にも、給電機能などの利便性も、高機能でよくできている。5万円以下の予算でデスクトップ再生用のスピーカーが欲しいと考える人にはぴったりだ。イルミネーションもハイテクムード満点だが派手すぎることもないので、好ましい色を選んで使えばなかなか楽しい。イルミネーション満載のゲーミングPCと組み合わせるのも面白そうだ。
また、音場感や目の前にボーカルが浮かび上がるようなくっきりとした音像定位が楽しめるので、普段はヘッドホンを使っている人がサブでスピーカーを持ちたいという場合にもよさそう。きめ細やかな音の質感や情報量はヘッドホンで楽しみ、音場感や実体感のあるボーカルを楽しむならスピーカーとそれぞれのよいところを使い分けることもできる。そういう意味でも活用範囲の広いスピーカーと言えるだろう。