調理に時間のかかる豚の角煮や煮魚、煮込み料理を短時間で仕上げられる圧力鍋ですが、火加減と加圧時間の調節が必要なほか、蒸気が勢いよく出るのが怖いという人も多く、初めて使う人にはややハードルの高い調理器具だと思われがち。また、買ってはみたものの使いこなせず引き出しの奥にしまったままという人も少なくありません。最近は、メニューや加熱時間などを選んでスタートボタンを押せば料理が完成する電気圧力鍋も話題を集めていますが、高機能なものはまだまだ価格が高めです。
そこで今回は、料理の腕は初級者レベル、圧力鍋は時々使う程度の筆者が、ガスコンロで使う直火式の圧力鍋の人気モデルで実際に料理を作り、その使い勝手や料理の仕上がり具合をチェックしてみたいと思います。
今回、テストするのはティファール「クリプソ ミニット イージー 4.5L」。2018年8月7日現在、価格.comの圧力鍋人気ランキングで1位になっている製品です。最大の特徴は、片手で簡単に開閉とロックができる同社独自の「アーチ状ハンドル」。ちなみに筆者宅には某人気圧力鍋ブランドの製品があるのですが、ふたの開閉に手間取って「イラッ」とすることが多いため、「アーチ状ハンドル」の使い心地には興味津々です。
鍋の内径は約22cmで、深さは約12cm。取っ手を含む横幅は約36cmで、高さは約17.5cmと比較的コンパクトなので、収納もしやすいです。また、重さが2.2kgと軽量で扱いやすいのも魅力。同社の従来品より約30%軽くなっているそうです。IH調理器にも対応しています
上でも触れましたが、「クリプソ ミニット イージー」は、圧力ぶたを軽い力で開閉できる「アーチ状ハンドル」(以下、開閉ハンドル)が高い評価を得ています。圧力鍋の種類によっては、ふたの開閉にコツが必要なものも多いのですが、この製品は、鍋の取っ手部分の溝に圧力ぶたパネル部の突起を合わせ、その後開閉ハンドルを倒せば、圧力ぶたが回転して自動で確実にロックしてくれます。ふたを開ける際も開閉ハンドルを起こすだけでOK。実際に使ってみても、めんどうだったふたの開閉が片手でできる快適さは感動ものでした。
開閉ハンドルを起こすと自動的にロックが解除され、ふたが開きます。ハンドルを倒すとふたが本体を密封し、その状態でロックされます
また、鍋本体や圧力ぶたが軽くて扱いやすいのもこの製品の特徴。特に圧力ぶたは軽さに加えて裏側の凹凸が少ないため、調理後の洗い物がとてもスムーズです。
圧力ぶたの裏面にあるおもな突起は安全ロックピンと安全弁、蒸気口の3つ。凹凸も複雑でなく、洗いやすいです
加圧調理中の圧力を一定に保つパッキングは圧力ぶた内側のツメに引っかけてセット。取り外しも装着もとても簡単です
「クリプソ ミニット イージー」は安全設計にもこだわっていて、一定以上の圧力がかからないよう「セレクター(圧力調整おもり)」から余分な蒸気を排出します。万が一、セレクターがうまく作動しなかった場合のために、さらに2重の安全設計が施されていて、中の圧力が一定以上に上がらない仕組みになっています。加圧調理中で安全ロックピンが上がっている間は、開閉ハンドルを起こそうとしてもふたが開かない構造になっているのも安心でした。
鍋の内部に圧力がかかるとふたの赤い安全ロックピンが上がり、ふたを2重ロック。この状態で開閉ハンドルを垂直に起こそうとしても、ロックがかかって起こせません。安全ロックピンは鍋の内部の圧力が十分下がらないと下がらず、ふたも開かない安全設計です
「クリプソ ミニット イージー」での圧力調理の工程は次の通り。まず、鍋に食材や調味料を入れ、圧力ぶたを閉めます
セレクターの圧力鍋マークを目印位置に合わせます
コンロの火を点け、強めの中火で加熱します
安全ロックピンが上がり、セレクターから蒸気が出始めたら、弱火に。ここから圧力調理がスタートします。ちなみに撮影が真夏だったので写真に蒸気は写りませんでしたが、蒸気が出てきたのは「シューッ」という噴出音でわかります。
加圧時間が終了したら火を止め、その後、鍋内の圧力が自然に下がるのを待ちます。安全ロックピンが下がったらセレクターの蒸気排出マークを目印位置に合わせて完全に減圧。これで圧力調理終了です
今回の「クリプソ ミニット イージー」では、4種類のメニューに挑戦したいと思います。
まずは、豚の角煮です。ティファールの公式サイトに掲載されているレシピに従い、1度豚ばら肉をかたまりのまま23分圧力調理。その後、ブロックに切り分けてから調味料を加えて再度圧力調理(12分)したあと、5分ほど煮汁を煮詰めて完成させました。調理時間は圧力がかかるまでの加熱時間や冷却時間などを含めて合計1時間20分ほどかかりました。
今回は最初の圧力調理のあと、味を染み込ませるための2度目の圧力調理が必要だったので、「急冷」を行いました。急冷は圧力ぶたの金属部に流水を1分ほどかけて、中の圧力を下げます。その際、セレクターや安全ロックピンに水が入らないように注意します
見た目は肉の部分にも脂身にもつゆがよく染みて、なかなかの完成度です。箸を使って2つに割ってみると、脂身はぷるぷるとろとろと簡単に崩れるやわらかさ。肉の部分もかむとホロリと肉の繊維が解けて、十分満足できる食感でした。通常の鍋で煮込んだ場合3〜4時間かかる豚の角煮が、圧力鍋を使えば半分以下の時間でできるのは大きな魅力。多めに作って冷凍しておいて、角煮チャーハンなどにも利用したいものです。
脂身の部分が崩れないように、やさしくそっと盛り付ける必要があるほどやわらか!
箸を入れると、肉にも脂身にも甘辛のつゆが染みていました。ごはんのおかずにもお酒のお供にも最適の一品です
続いて、いわしの梅干煮に挑戦です。これも公式サイトのレシピに従い、調味料を合わせて梅干を入れた煮汁を煮立て、頭と腹わたを取ったいわしを入れて、しばらくアクを取ったらふたをして25分間加圧。火を止めて安全ロックピンが落ちるまで放置したあと、ふたを開け、弱火で煮汁を煮詰めて完成です。調理時間は40分ほどでした。
いわしはスーパーで頭と内臓を取り除いてもらい、調味料を合わせたつゆに入れて圧力調理しただけ。調理時間も思ったより短かったです
食べてみると、骨までやわらかく文句なしの食感。味もしっかり染みていて、初めて作ったとは思えないおいしさです。筆者はふだん、煮魚料理はほとんど作らないのですが、それでもここまでおいしく作れたのに驚きました。調理の工程も簡単で、今回「クリプソ ミニット イージー」を使った料理の中では、もっとも圧力鍋のメリットが実感できた料理でした。
煮上がったいわしに、梅干と大葉をあしらって完成。梅干の酸味でいわしの臭みも抑えられ、甘辛い香りが広がります。いわしの背骨も小骨もやわらかく仕上がり、食べる際にまったく気になりませんでした
続いて豚汁を作ってみました。豚汁は筆者も寒い季節にはよく作る料理ですが、圧力鍋を使うことで調理時間を短縮できるとのこと。公式サイトのレシピでは「豚肉とこんにゃくを下ゆでしてアクを取り除く」と書いてあったので、今回はそれに従うことに(ちなみに筆者はふだんは肉や野菜すべてを鍋に入れ、一度にまとめてアクを取ります)。加圧時間は6分で、その後鍋に流水をかけて急冷しました。これはじゃがいもなどの加熱しすぎによる煮崩れを防ぐためです。最後に味噌を溶いて再び煮立ったら完成。調理時間は30分ほどでした。
鍋に玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、大根、下ゆでした豚肉とこんにゃくを入れ、ひたひたの水と顆粒だしを入れて加熱。加圧6分でその後急冷しましたが、玉ねぎはもちろん大根にも透明感が出ていました。調理時間は約30分かかりましたが、豚肉とこんにゃくの下ゆでをしなければ、20分くらいで作れそうです
試食してみましたが、具材への火の通り方は問題なし。火の通りにくいにんじんや大根もきちんとやわらかく仕上がっていました。味がもう少し染みていると文句なしでしたが、味噌を溶いて時間がそれほど経っていなかったので、ここは致し方ないところ。気になっていたじゃがいもは、煮崩れしにくいメイクイーンを使ったこともあり、角がわずかに崩れる程度、口に入れるとほくっと崩れる絶妙のやわらかさになっていました。
圧力鍋でじゃがいもを煮ると煮崩れしやすいですが、今回は圧力調理後に急冷したおかげで、具材の形はしっかり保てていました。
最後に圧力鍋での炊飯を行ってみました。昨今は圧力電気炊飯器が人気で、多くの食卓ではモチモチと弾力のあるごはんが好まれているようで、筆者も多くの圧力電気炊飯器を試しています。それらと比べて、本家本元の圧力鍋でご飯を炊くとどんな味と食感になるのか、楽しみです。
お米は富山県産コシヒカリを使用。製品に付属のレシピ集に従い、圧力鍋内で米を30分浸し、5分加圧したあと自然放置で蒸らしました。レシピ集には「10分蒸らし」と書かれていましたが、ここでは12分後に安全ロックピンが落ちるまで待ちました。浸しから蒸らし完了まで計50分ほどかかりました。
ふたを開けるとお米が驚くほどつやつや。これほどのつやは電気炊飯器ではなかなか実現できないと思います。食べるともち米のような弾力のある炊き上がりで、コシヒカリを使ったせいもありますが、粘りが非常に強く、さらに甘みが驚くほど増していました。モチモチ系のごはんが好きな人にはたまらない炊き上がりでしょう。
高圧で炊飯しているため、米の1粒ひと粒がおねばにコーティングされ、ツヤとハリが抜群。甘みと弾力も電気炊飯器とは一線を画すものがありました
茶碗によそってみると、米がおねばに包み込まれているのがさらによくわかります。もち米を入れていないのにおこわのような弾力があるのにも驚かされました
浸水時間、加圧状態に入るまでの時間を入れると、そこまで時短になったとは思いませんが、火加減調節もそれほどめんどうでないので、このモチモチ食感を味わうためにあえて圧力鍋でごはんを炊くのも「アリ」だと思いました。
豚の角煮や煮魚を短時間でやわらかく仕上げられ、炊飯にも有効な「クリプソ ミニット イージー」は、料理初級者でも十分その便利さを実感できる製品だと感じました。ちなみに、加圧調理する時間を計るのがめんどうという人には、タイマー付きの「クリプソ ミニット パーフェクト」という製品もラインアップされているほか、別売りの専用タイマーを取り付けることもできます。
ひとつ気になったのは、使用後のお手入れ。軽く、圧力ぶたの形状も比較的フラットで洗いやすいのですが、ステンレス製の鍋には汚れがつきにくいフッ素コートがされていないため、豚ばら肉のかたまりを茹でた時に鍋肌についたアクを落とすのにかなり苦労しました。また、炊飯の場合も、ごはんのねばり部分がくっつき、汚れを取るためしばらくお湯に浸けておく必要がありました。メーカーによると、なべ中面にチタンを配合したふっ素樹脂コーティングをすることでこびりつきにくい「クリプソ ミニット デュオ」というシリーズも用意されているそうです。
鍋肌や鍋底に、豚肉を加圧しながら茹でた時のアクがわずかにつきました。汚れの量自体は少なかったのですが、かなりこびりつきが強く、タワシでゴシゴシこすって落とす必要がありました。いっぽう、いわしの梅干煮はそれほどこびりつき汚れは出ませんでした
ご飯のこびりつきはしばらくお湯に浸けておくと、取りやすいです。また、炊飯後のご飯を長く鍋の中に入れておくと、こびりつきが多くなる印象でした
「クリプソ ミニット イージー」の魅力は、圧力ぶたの開閉が簡単にできる使いやすさと、安全設計がしっかりされていることからくる加圧調理の安心感です。また煮魚料理と炊飯は、調理初級者の筆者でも簡単、かつ初めて作ったとは思えない仕上がりになりました。
圧力鍋としてのベーシックな機能を備えつつ、使いやすさを追求したこの製品は、実売価格が約1万円でコスパも抜群。公式サイトにアップされているレシピが約300種類と豊富なのもうれしい点で、圧力鍋初心者でもさまざまな料理に使いこなせます。
ただし、圧力鍋としての性能を見ると、圧力は1段階、しかも65kPaと少し低めで、本格的に圧力鍋を使いこなしたい人にはやや物足りない仕様。圧力鍋調理に慣れてくるにつれ、より高圧な機種がほしい、加圧を2段階で変えられる機種が欲しいなどの要望が出てくるかもしれません。
ともあれ、初めて使う圧力鍋、あるいは1度圧力鍋に挫折した人が再チャレンジする機種としては、「クリプソ ミニット イージー」は最適な機種だと感じました。
雑誌やWeb媒体において、生活家電の紹介記事やお試し記事を執筆。家電ジャンルは調理家電から掃除機、美容・健康家電など幅広くこなす。夫婦共働きのため、調理など家事も応分に担当(ただしあくまでダンナ目線)。立食いそばも好き。