ここ数年、電気圧力鍋の人気が上昇中です。電気圧力鍋はさまざまなメーカーから発売されていますが、今回紹介するのは、2019年9月に発売された、アイリスオーヤマの電気圧力鍋「KPC-MA2」。多彩な調理モードや65種の自動メニューを搭載するほか、グリル鍋としても使えるなど、充実した機能が話題の同製品を、じっくりレビューしたいと思います。
KPC-MA2の第1印象はとにかく「小さい!」。幅や奥行きはもちろん、何より高さが抑えられているのが目を引きます。「電気圧力鍋は便利そうだけど、キッチンで場所を取るのがイヤ」という人も、これなら快適に使えるはず。本体の質感もマットでオシャレです。
サイズは282(幅)×213(高さ)×286(奥行)mmで、重さは3.6kg。ふたを外すと高さは約16cmとなり、卓上で使えるサイズ感になります
付属するパーツ。後方左から、内鍋、本体、ふた、前にあるのは付属品で、左からマグネット着脱式の電源コード、蒸しプレート、白米用計量カップ。このほか、専用のレシピブックも付属します
KPC-MA2の特徴はまず、調理モードの豊富さ。基本の「圧力調理」のほか、水をほとんど使わず、食材に含まれる水分だけで調理する「無水調理」、30〜100℃で調理温度と調理時間が変えられる「温度調理」(設定温度30〜70℃の「低温・発酵調理」も含む)、野菜類の「蒸し調理」や、ふたを開けて鍋料理ができる「鍋モード」まで搭載しています。
また、最大の売りは「自動調理メニュー」を65種類も内蔵している点で、「カレー」や「豚の角煮」「ポトフ」など一部の自動調理メニューは、「予約調理」にも対応しています。
自動調理メニューの一覧。甘酒などの発酵調理や、スポンジケーキなどのスイーツも作れます
予約調理可能なメニューは、メニュー決定画面で予約ボタンの緑のランプが光ります。レシピブックには予約調理可能かどうか記載がないのですが、記載があれば、メニュー選びの際に便利だと思いました
今回は付属のレシピブックの中から、各調理モードを代表する自動調理メニューを作ってみたいと思います。
付属のレシピブック。全メニュー自動調理に対応し、ほぼボタンひとつで料理を作ることができます。各メニューにはボタンを押してから圧力表示ピンが落ち、料理が完成するまでの「調理時間」も表記されていて、料理作りの計画を立てる際の目安になります
「圧力調理」では角煮などと並んで定番の「牛すじの煮込み」を作ってみました。このメニューは、自動調理に入る前に牛すじやこんにゃくを下ゆでするなどの下処理が必要です。
牛すじは別鍋で2分間下ゆでし、そのあと流水で洗って汚れやアクを取り除きます
ひと口大に切った牛すじ、乱切りのごぼうと大根、こんにゃく、調味液を入れ、レシピ集に書かれたレシピ番号を選んで決定ボタンを押せば調理が始まります
55分後にアラームが鳴り、牛すじの煮込みが完成しました。すじ肉を下ゆでする手間はかかりますが、できあがりは文句なし。牛すじの肉の部分はかむと繊維が心地よくほぐれ、硬い筋はトゥルントゥルンのゼラチン質になっています。ごぼうや大根もやわらかで、特にごぼうはやわらかさの中にサクっとした食感も残っていて絶妙の火の通り具合です。ちなみにレシピには書かれていませんが、指定の調味液に牛すじを下ゆでしたゆで汁も加えたら、深みのある味わいになりました。
調理終了後にふたを開けたところ、食材からうまみたっぷりの水分がしみ出して、つゆがひたひたになっていました
牛すじはもちろん、大根もトロトロでしっかり味がしみていました。ごはんのおかずにも、お酒のつまみにも最適。作り置きしたい一品です
「無水調理」で試してみたのはチキンカレー。レシピブックに従い、鶏もも肉、トマト、たまねぎ、セロリ、にんじんを使いました。カレールーはハウスの「ジャワカレー(辛口)」を使いましたが、レシピで指定されたルーの量は通常より少なめでした。
みじん切りにしたトマト、たまねぎ、セロリ、にんじん、鶏もも肉を順番に鍋に投入。水気の多い野菜を先に入れることで野菜の水分を引き出し、焦げ付きなく全体に火を通すことができます
「無水カレー」のレシピ番号を選んで調理開始
55分間の調理終了後にふたを開けると、水分がたっぷり出ていました。この水分には野菜の甘み、鶏肉のうまみが溶け込んでします
細かく刻んだカレールーを入れ、余熱で溶かせば無水カレーの完成
できあがったカレーは予想以上に野菜のうまみが濃厚。特にトマトの甘みと酸味が強く感じられました。たまねぎの甘みにセロリの甘みと風味も加わったことで、味に深みが出ています。こんな上質な味わいのカレーがボタンひとつでできるとは衝撃的です。
本機で作った無水カレーの感想をひと言で言うと「お店レベル」! カレールーの量を少なめにしたことで、より野菜のうまみが感じられました
ほかの多くの電気圧力鍋と同様、本機にも「炊飯」コースが搭載されています。そこで、「白米炊飯」を試しました。
本機の炊飯容量は3合ですが、今回は2合を炊きました。レシピブックの「白米炊飯」の番号を選んで炊飯開始。レシピブックによると、「白米炊飯」ではふた上部のおもりを「排気」に合わせるので、自動調理の場合は圧力炊飯は行わないようです。
自動調理モードで「白米」を選ぶと、ごはんの炊き加減(食感)を「かため/標準/やわらか」の3種類から選べます。今回は「標準」で炊いてみました
おもりのレバーは「排気」に合わせましたが、炊飯中に圧力表示ピンが上がったので、1.7気圧はないにしろ、圧力はかかっているようです。ちなみに、炊飯時間は70分で、一般的な炊飯器と比べてもかなり長く感じます。
約50分で炊飯終了のアラームが鳴りましたが、その時点で圧力表示ピンは下りず。さらに約20分待ってやっとピンが下りました(操作パネルに表示された「70分」はピンが下がるまでの時間を表したもののよう)。炊き上がったごはんは白く透明感があるものの、米のふくらみはやや控えめでした
ごはん茶碗によそって試食。千葉県多古産のコシヒカリを炊飯しましたが、見た目にもふっくら感は少なく、ごはんが締まっている印象です
試食してみたところ、予想に反してしゃっきり・硬めの食感でした。甘みもかなりすっきりしています。
ちなみに、手動調理メニューで「圧力調理」を選び、加圧6分で炊飯したところ、圧力鍋ならではのもっちりした食感に仕上がりました。もちもち系が好みの人は、「圧力調理」で炊くのもオススメです。
「鍋モード」では、ふたを開けた状態で内鍋に具材を入れ、卓上ですき焼きやチーズフォンデュなどが楽しめます。本体の高さを抑えた同機だからできる調理機能です。今回はレシピブックに掲載されている「寄せ鍋」を作りました。
使い方はレシピブックに指定のレシピ番号を選び、具材とだし汁、調味料を入れるだけ(具材を入れてから操作パネルの設定をしてもOK)。火力は5段階で変えられ、最初は強火で具材を煮て、火が通ったらトロ火に切り替える、という使い方ができます。
ダイヤルを回すことで、火力設定を1〜5の間で切り替え可能。レベル1だと “保温”状態になります
高さはカセットコンロに鍋を置いた状態よりやや高い程度。設置面積も直径25cm程度で、コンパクトに鍋パーティーができます
火力も十分で、鍋をストレスなく楽しめます。ネギもしっかり火が通ってくたくたの状態に
ちなみに鍋料理の場合、自動調理メニューから設定しても、単に鍋の中身を加熱するだけで、特に手動と比べて便利ということもないようです。レシピブックの設定に縛られすぎるより、手動メニューで直接「鍋モード」を選んで、あとはカセットコンロやIH調理器で鍋をするように、火加減を自分で調節しつつ気軽に使ったほうがいいかもしれません。
「温度調理」では、人生初の豆腐作りに挑戦! レシピブックに従い、耐熱容器に無調整豆乳とにがりを入れてよく混ぜ、自動調理のレシピ番号を選び調理開始しました。ところが、調理終了してふたを開けてみても、まったく固まっていない。改めてレシピブックをよく見ると「豆乳やにがりの種類によって固まりにくいものもあります」と書かれているものの、どんな種類が固まりにくいかまでは記載がありません。
その辺をネットで調べると、無調整豆乳でも大豆固形分が10%以上ないと固まりにくいそうです。ちなみに筆者が買った成分無調整豆乳は大豆固形分9%でした(泣)。また、レシピには単に「にがり小さじ1」とだけありますが、にがりも商品によって濃度に違いがあるらしい。購入したにがりの商品サイトを見ると「手作りとうふの作り方」が説明されていたのですが、本機のレシピブックに指定の豆乳量300mlに対して、このにがりは小さじ4〜5杯入れるとあります。うーん、レシピブックにはその辺もうちょっと親切に書いといてほしかったですねえ。
ともあれもう一度仕切り直し。今度はスジャータの「豆腐もできます有機豆乳」(大豆固形分10%、何より名前がガチ!)を買ってきて再チャレンジです。
耐熱容器に「豆腐もできます有機豆乳」330mlと、にがり24 mlを入れてよく混ぜ、ラップをしてから、水を張った内鍋に耐熱容器を入れます
レシピ番号を選び決定ボタンを押すと、調理温度(85℃)と調理時間(50分)が表示されました
粗熱を取ったあと、冷蔵庫で冷やして完成。できたてを取り出す時に容器がほんのちょっと揺れたら、縁の部分に一瞬でシワができてしまいました。きれいな仕上がりを目指すなら取り出す際も細心の注意が必要です
気になる味は、とにかくクリーミーで豆の味が濃厚! 汲み豆腐(おぼろ豆腐)のようにとろりとした舌触りがたまらないおいしさです。今回の豆腐を作るコストは190円程度だったので、スーパーでややお高い豆腐を買うのと同じくらい。でも鮮度と味は断然こっちが上(自分で作ったためかなりひいき目です)。家でお客様をもてなすときの先付けにも使えそうです。
自動調理メニューは「カレー・シチュー」「煮物」「スープ」などのカテゴリーから選ぶ方法と、「牛肉」「豚肉」「魚介」などの食材から選ぶ方法、レシピ番号で選ぶ方法などがあります。レシピブックに載っている料理を、食材の種類や量もしっかり合わせて作りたい場合は、レシピ番号で選ぶのがもっとも簡単ですが、レシピブックを見る必要がなければ、カテゴリーや食材からメニューを選ぶのがスムーズでしょう。
いっぽう、自動調理の仕上がりに満足できない場合やより幅広いメニューを作りたい場合は、手動調理メニューを選ぶことになります。
今回は手動調理で、炊き込みご飯を作ってみました。これは先日パナソニックの電気圧力鍋「SR-MP300」を試した時にも作ったメニューですが、「SR-MP300」の最高圧力も同じ1.7気圧だったので、まったく同じ食材を使い、加圧時間設定も同じにして炊飯しました。
白米を炊くのと同じ分量の水を入れ、上にごぼう、こんにゃく、鶏肉、干ししいたけ、油揚げなどの具材を乗せて炊飯。加圧時間は8分に設定しました。できあがり時間は48分と表示されました
ごはんの粒は小さめながら、しっとり感のあるごはんが炊き上がりました。しゃもじで具材を軽く混ぜれば完成です
食べてみると、圧力炊飯で炊いたせいか、白米を炊いた時よりごはんに粘りを感じました。具材を含む全体の味のまとまりも、「SR-MP300」とほとんど違いがないようです(圧力が同じなので当然なのかもしれませんが……)。
できあがった炊き込みごはんを茶碗によそって試食。鶏肉、干ししいたけ、油揚げからいいダシが出て、箸が止まりません!
今回手動調理を試したのは炊き込みごはんと白米炊飯(圧力調理)だけですが、圧力鍋をそれほど使いこなしていない筆者でも、手動調理を使ってそこそこの料理は作れました。圧力の差による加圧時間の調整の目安が書かれたサイトもありますし、ネットでレシピ検索するだけでもメニューの幅はさらに広がりそうです。
KPC-MA2の操作パネルは、ダイヤルでメニューを選択し、「決定」ボタンで次の階層に移る「階層タイプ」。ボタンが硬めなのが難点ですが、ダイヤル式でスムーズにメニューが選べ、操作感は快適です。フルドット液晶採用の液晶パネルで文字の視認性も良好。1度決定した設定を変更したい場合も、「戻る」ボタンを押せば1階層だけ戻れるので、設定し直しを最小限に抑えられます。
トップメニューは「自動メニュー」「手動メニュー」のほか、お気に入り登録したメニューをすぐに呼び出せる「お気に入り」、代表的なメニューだけ集めた「簡単モード」などが搭載されています
自動メニューで「カテゴリーで選ぶ」を選択すると、「カレー・シチュー」から「お菓子」「鍋」まで9種類のカテゴリーを表示。各カテゴリーに多彩なメニューがそろっています
また、トップメニューの「レシピサイト」を選ぶと画面にQRコードが表示。これをスマホで読み込むと専用サイトにアクセスできます。
レシピブックに掲載のレシピをスマホで確認できるので、材料の買い出し時や、調理中も工程を確認できて便利です
自動調理メニューを選ぶと、調理モードに応じた設定が表示されます。自動調理での仕上がりに満足いかない場合は、この設定をもとに手動調理メニューでスムーズに調整可能です。
圧力調理の場合は加圧時間とできあがり時間、温度調理・低温調理の場合は調理温度とできあがり時間が表示されます。また、よく作るメニューは、ここで「お気に入り」を登録しておけば、次からより簡単に呼び出せます
ふたの開閉に関しては、電気圧力鍋の中には一部やりにくい製品もありますが、本機はとても快適。開ける場合はふたを「ひらく」の位置までスライドすれば「ピー、ピー」とアラームが鳴ってロックが解除、閉める場合もふたがきちんと「ひらく」の位置に収まるとアラームが鳴って教えてくれます。
ふたの開閉には両手を使う必要がありますが、開け閉めにはほとんど力はいりません。ただし、ふた自体にはそれなりの重さがあります
お手入れについては、やはり圧力鍋なのでふたの形状が複雑かつ洗うパーツも多いです。
ふたに装着したパッキン(左)、おもり(中央)、調圧弁キャップ(右)は毎回洗います
内鍋はテフロン加工が施され、汚れがこびり付きにくいのが超便利。炊飯後も2〜3分お湯につけておけば、すぐに汚れが落とせます。ただし、テフロンは傷つきやすいので、洗う際は金属系やナイロン系のたわしは厳禁。フライ返しやおたまも金属製でなくやわらかいプラスチック製を使うとテフロンに傷がつかず、お手入れしやすさが長持ちします。
写真は牛すじの煮込みを作ったあとの内鍋。こびり付き汚れがまったくなく、中性洗剤とスポンジでさっと拭いて洗い流すだけで済みます
本体のつゆ受け部分は金属製の突起が大きくせり出し、隙間部分にたまった水分や汚れの拭き取りが、けっこうめんどうでした
なお、本機は「お手入れ」モードを装備。内鍋にたっぷり水を入れて沸騰させることで、内鍋についた汚れやニオイを煮沸洗浄します。パッキンに染み付いたニオイは、重曹を入れたお湯で10分ほど煮沸後、2時間程度漬け置きするとかなり落ちます。
お手入れモードでは、内鍋の最大水位まで水を入れて30分間煮沸。おもりのレバーは「排気」に合わせます。煮沸後はお湯が十分冷めるのを待ってから鍋を洗います
設置性に関しては、幅と奥行きがコンパクトなのに加えて高さがないので、キッチンはもちろんダイニングテーブルに置いても違和感はありません。水蒸気も沸騰後、比較的短時間で圧力表示ピンが上がって出なくなります(ただし、上部空間が狭いスペースは避けたほうがいいかも)。
KPC-MA2の魅力は、鍋料理にも対応する多機能さ。圧力調理は牛すじ肉も十分やわらかく調理できますし、無水調理も野菜のうまみを引き出して濃厚な味わいになります。温度調理・低温調理も温度調節は5℃単位ながら、下は30℃から上は100℃まで温度を制御でき、幅広いメニューに対応。今回は試しませんでしたが、蒸し調理モードも備え、温野菜をちょっと作るのにも便利です(ゆでるのと違い、栄養分が流出しないのもうれしい)。
また自動調理メニューは、圧力調理の加圧時間や煮物(100℃調理)の加熱時間、低温調理の温度などをいちいち調べずに調理開始できて便利。しかもそれが65種類もそろっているので、夕飯のおかずに迷ったらとりあえず自動メニューから探せば、メニューもすぐ決まるし調理も手間いらずです。
レシピブックと同じレシピは公式サイトにも掲載。トップメニューの「レシピサイト」のQRコードから飛ぶのはこのサイトで、スマホでブックマークしておけば、いちいちレシピブックを出してくるめんどうも減ります
さらに、手動調理も活躍しそう。実は電気圧力鍋には1.6〜1.7気圧の製品がけっこう多いので、(大きな声では言えませんが)そうした製品用のレシピもちゃっかり活用できたりします。
ちなみに本機は、圧力表示ピンが下りてから調理終了のアラームが鳴るまでやや時間を取っているようです。特に圧力調理の場合、ゆっくり減圧する過程で食材に味がしみていくので、よりおいしくするためにあえて調理時間をやや長めに設定しているのかもしれません。
操作性に関しては、ダイヤルでメニューをどんどん変えられるのが便利。ただし、自動メニューのレシピ番号検索にはけっこう不満があって、番号が65もあるうえにダイヤルを大きく回しても5つくらいしか番号が進まないので、20〜40番台の番号を選択するのにかなり手間がかかります。そういう時は「カテゴリー」や「食材」からのほうが(少なくとも気分的には)スムーズにレシピを探せます。
とはいえ、筆者としては大きな不満はそれくらいで、使い勝手もほぼほぼ問題なし。それでもこの製品、「あらゆる層にオススメ」というわけではありません。特にユーザーを選ぶことになるのが調理容量で、1.4Lというのは3人家族でぎりぎり、4人以上の家族(特に育ち盛りの子供がいる家)だと正直物足りないと思います。逆にひとり暮らしや2人世帯には文句なしです。
そんな「人数縛り」はありますが、KPC-MA2は料理初心者から料理好きまで幅広く満足させられる製品です。特に電気圧力鍋初心者は、最初は自動調理をどんどん使い、使い方に慣れてきたら少しずつ手動調理にも手を広げていけば、より長く愛用できるでしょう。