“おいしいごはん”を探求する米・食味鑑定士が、気になる炊飯器を自宅でじっくり使って味わいと使い勝手をチェック。今回ピックアップしたのは、今ではめずらしくない10万円超クラスの炊飯器を生み出した三菱電機の最上級モデル「本炭釜 KAMADO NJ-AW106」(以下、NJ-AW106)だ。羽釜形状となった本炭釜のおいしさとは?
IH炊飯器の現在の主流は内釜内部の気圧を上げ100℃以上の高温で炊く圧力炊飯方式だが、NJ-AW106は圧力をかけずに炊く非圧力炊飯方式を採用している。メーカーによると、「かまども圧力をかけていない。非圧力が自然な炊き方」なのだそう。そして、非圧力というこだわりのほかにNJ-AW106には大きな特徴がある。従来どおり内釜は本炭釜だが、羽釜形状に変更された。純度99.9%の炭素材から削り出された本炭釜はIHと相性がいいため、内釜全体が発熱する。さらに高い遠赤外線効果もあり、大火力を米に伝えられるのだ。そんな内釜が羽釜形状になったことで、炊飯時の吹きこぼれを抑えながら連続沸騰ができるようになった。
サイズは285(幅)×249(高さ)×320(奥行)mmで、炊飯容量は5.5合(1.0L)。デザインも「実りの形」をイメージした形に刷新された
上の部分に高さを持たせた羽釜形状を採用。底中央部の厚みは10mmで、業界最厚となっている
羽の下の部分は内釜をセットする部分(かまど内)に収まるが、上の部分はかまどからはみ出る仕様。下の空間を100℃にしても上の空間の温度は低くなるため、火力を弱めることなく沸騰状態をキープできる
本体側面に3mmと10mmの断熱材を配置。従来モデルは3mmの断熱材のみだったので、より熱が外に拡散しにくい構造となった。さらに、羽とかまどが接触する部分に熱密封リング(赤い部分)を施し、熱が逃げないようにしている。これらの断熱構造により、従来よりも炊飯時の火力は約28%アップ
内蓋にも炭コーディングが施されているため、上下左右から米に遠赤外線を放射
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もっとも使用頻度が高いであろう白米にはスタンダードな炊き方(ふつう:炊飯時間約48〜56分)のほか、おこげを付けたり、炊き込みごはんやおかゆ、中華粥ができるメニューある。だが、おいしいごはんを目指すならば「炊き分け名人」モードや「銘柄芳潤炊き」モードを利用してほしい。「炊き分け名人」モードは硬さ5段階、粘り3段階をかけ合わせた計15通りの食感から選んで炊くことができ、「銘柄芳潤炊き」モードは米の銘柄にあわせた炊飯ができる。米には品種ごとに個性があり、理想的な浸水や炊き方も違うもの。「銘柄芳潤炊き」モードで銘柄を指定しておけば、それぞれに適した炊飯工程で個々の特性を生かした味に仕上げてくれるのだ。
「炊き分け名人」モードで硬さと粘りを指定すると、どのようなメニューにあう食感なのかも表示されるので選びやすい
「銘柄芳潤炊き」モードに登録されている銘柄は23品種。銘柄を選んだ後、「炊き分け名人」モードと同じように硬さと粘りを選ぶことができる(ただし、硬さ3段階×粘り3段階=9通り)
白米だけでなく発芽米、分づき米、玄米にも対応。玄米の炊飯には、通常よりも10分ほど炊飯時間がかかるがおいしさを追求した「芳潤炊き(玄米)」モードや、炊飯時のビタミンB1の損失を低減する「美容玄米」モードもある。
ここからは、実際に炊いて試食して味や食感をチェックしていく。やはり気になるのは、米の品種を指定して炊く「銘柄芳潤炊き」モードの実力だ。「北関東産のコシヒカリ」と「ゆめぴりか」を用意して、米の個性がしっかり引き出されるのかを確認してみる。
それぞれ銘柄を指定し、硬さと粘りは中間に設定。3合を炊いてみた
炊けたごはんは艶やかで、粒感がしっかりしている印象。コシヒカリは適度なもちもち感と粒のしっかりとした食感が特徴の米だが、炊飯器やモードによってはやわらか過ぎたり、水っぽくなることもある。「銘柄芳潤炊き」モードでは絶妙なバランスの食感が感じられ、「ふつう」に炊くよりも甘みが引き出されていた
大粒の品種であるゆめぴりかは、コシヒカリ以上にもちもちでやわらかく炊ける傾向にある。「銘柄芳潤炊き」モードでの炊きあがりを見ると、あきらかにコシヒカリより粒立ちがいい。米粒がつぶれるようなやわらかさにはならず、食感もしっかりと残っている。ゆめぴりかのよさがバッチリ引き出されているように感じた
続いては、「銘柄芳潤炊き」モードで硬さや粘りの設定を変えて食感にも変化が出るのかをチェックしてみる。上で検証したコシヒカリを「やわらかめ」で「もちもち」になるように指定して炊いてみた。
硬さと粘りを中間に設定していたごはんに比べると粘り感が強くなり、水の量を調整しなくても食感の炊き分けができることを確認。ただし、炊飯量を5合にしてみるとやわらかめで炊いても若干硬くなってしまった。食感の調整は3合以上では少々効果が薄れる傾向にありそうだ
炊きたてはおいしいけれど冷めたごはんはどうなのかを確かめるために、おにぎりにしてみた。NJ-AW106は、一般社団法人おにぎり協会が、おにぎりの特性を生かすことができる炊飯器と認定した第一号機だ。にぎった状態で冷めてもおいしく食べられるそうなので期待が高まる。
にぎってから2時間放置したおにぎりを食べてみた。冷めてもつや感や白度は失われておらず、甘みや香りの劣化も感じず。しっかりめににぎったが、ごはん粒もつぶれていない。これなら、お弁当にもピッタリだ
前述の「どんな炊飯コースがある?」の部分で明記しなかったが、急いで炊き上げたい時に役立つ「うま早」コース(炊飯時間約28〜31分)と「お急ぎ」コース(炊飯時間約19〜25分)も用意されている(炊飯容量は1〜3合)。スピードを優先するために予熱と蒸らしの時間が短縮されており、炊きあがったごはんは通常よりも硬めになる傾向。「うま早」コースのほうが少し長めに予熱と蒸らしが設定されているので、味も早さも求めたいならば「うま早」コースを選ぼう。
「うま早」コースで炊いたコシヒカリは、「銘柄芳潤炊き」モードや「炊き分け名人」モードと比べると甘みが薄い印象。また、わずかに水っぽさも感じられる。しかし、「お急ぎ」コースはさらに甘みややわらかさが弱く、あきらかに急速モードで炊いたという味だ。7分程度しか時間が変わらないのなら、「うま早」コースで炊くほうがいいだろう
高級タイプの炊飯器は洗浄するパーツが多いが、NJ-AW106は内釜と内蓋のみと少ない。その秘密は、炊飯中に出る蒸気やおねばを溜めるカートリッジがないからだ。エントリークラス以上の同社炊飯器には内蓋と一体化したカートリッジが装備されていたが、NJ-AW106では吹きこぼれを抑える羽釜形状と構造が採用されたためカートリッジが不要になった。
オレンジのレバーを上に押せば、内蓋は取り外せる
内蓋は2つに分離できるようになっているので、洗浄時は分けて洗おう。どちらも凸凹はあまりなく、洗いやすい
大手メーカーのフラッグシップモデルにおいて、唯一の非圧力方式を採用しているのが三菱電機だ。非圧力で炊いたごはんは、適度な粘りと強めの粒感が特徴。圧力方式に比べると粘りや甘みが若干控えめなため、圧力炊飯器から買い替えると物足りなさを感じるかもしれないが、比較的硬めで、しっかりとした食感のごはんが好きならば非圧力のほうがあうだろう。“無理に”ごはんの甘さを引き出さず、米本来の味を引き出すことができるので、あっさりしたおかずにもあわせやすいという印象だ。
今回、いわゆる普通の炊飯をしていないが、NJ-AW106には「ふつう」コースも用意されている。しかし、筆者はあえて「ふつう」コースを選ぶ理由が見出せなかった。たしかに「炊き分け名人」モードや「銘柄芳潤炊き」モードを設定すると炊飯時間が「ふつう」よりも最大30分強長くなる。だが、時間に見合うおいしさが間違いなく得られるのだ。現在はほとんどの米が銘柄別で売られているので、せっかく米にこだわったのならその米が持つ個性をきちんと味わってほしい。米好きなら選ぶ価値のある炊飯器だ。