本連載は、文房具の専門家2人がそれぞれお気に入りの新製品を互いにプレゼンし合う対談企画。専門家として対談を行うのは、テレビ番組「マツコの知らない世界」にたびたび出演する文具ソムリエール・菅未里さんと、文房具コラムサイト「森市文具概論」編集長のきだてたくさんの2人だ。
【プロフィール紹介】
●菅未里(かん みさと/左)……Webサイト「STATIONERY RESTAURANT」を運営する文具ソムリエールとして活躍。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当に。現在は、文房具の紹介、コラム執筆、商品開発、売り場企画などの活動をしている
●きだてたく(右)……1973年京都生まれのライター/デザイナー。自称「世界一の色物文具コレクション(3000点以上)」に囲まれながらニヤニヤと笑って暮らす日々を送る。文房具コラムサイト「森市文具概論」では、文房具魔改造講座などピーキーな記事を連発している
第9回は、きだてさんが3種類の段ボール箱オープナーを菅さんに紹介。「ハサミやカッターナイフでよくない?」と思う人は、読んだあとに目からウロコが落ちるはず!
【過去の連載記事】
[第1回]誰でも「TED」式プレゼンができる! リモコン型マウス「Spotlight」が優秀すぎる
[第2回]真鍮×アクリルの軸が渋すぎ! サクラクレパスがこだわり尽くした珠玉のボールペン
[第3回]布も段ボールもサクッ! 7,000円の最上級ハサミ「エクスシザース」
[第4回]40°の角度がミソ! “美しすぎるペン立て”「マルチスタンド」
[第5回]無抵抗感に目からウロコ! ガラス製「カッターマット」の知られざる実力
[第6回]ニッチ過ぎ! コクヨのインデックスプリンターは東京五輪で需要増?
[第7回]地味だけど歴史的進化! 綴じ具の定番「クリップ」と「ガチャック」の新モデル
[特別編] 【2018年】人気の電子辞書の選び方! 「EX-word」&「Brain」徹底比較
[第8回]「100均で十分」は大間違い! 「クリアファイル」が驚きの進化を遂げていた
きだて(以下、き) 今回はですね、段ボール箱のオープナーを紹介しようと思って3点持ってきたんですけども。初心者向けから通販ヘビーユーザー、流通のプロ向けと3段階に分けて集めてみましたよ。
菅 そういうカテゴリー分けなんですね。最上位はプロ向けなんだ。
き いま、通販をまったく利用していない人はだいぶ少なくなってきたんじゃないかと思うんです。特に、「価格.comマガジン」を見てくださってる人なんて、ほぼネット通販やる人でしょ? となると、買った物がだいたい段ボール箱に入った状態で届きますよね。
菅 今回は、その段ボール箱をサクッと開けるための道具ってことですよね。
き 段ボール箱オープナーって、持っていないか使っていないか、あるいはそもそも存在を知らない人が多いんじゃないかなと思っていて。使うとものすごく便利で快適なので、この機会に知ってもらえるとありがたいんです。
文房具ライターおすすめの段ボール箱オープナー3選
菅 「Amazon.co.jp」とか「ZOZOTOWN」だと、段ボール箱が手で開けやすいように工夫されているので、基本的に道具は使わなくて済みますよね。
き とはいえ、それら以外のECサイトで購入すると、段ボール箱はだいたい、梱包テープとかガムテープをベタッと貼った形で届きますよね。で、そのテープを切って開けるわけだけど、カッターナイフを使うのはまだいいほうで、ハサミをガバッと開いて突き刺したり、手でバリバリ破っちゃったりする“原始時代の人”が中にはいるわけですよ。
菅 女性だと、手で開けたら爪が割れたりしますからね。よくないですよ。最悪、段ボールのフチで指を切っちゃったりとか。
き もうね、道具使ってくださいよ、と。そういう人たちは「いちいち道具を取りに行くより手で開けちゃったほうが早い」なんて言うんですけど、そんなことはなくて。ちゃんとした専用のオープナーを使うほうが、間違いなく早いし効率的です。
菅 やっぱり専用の道具にはそれなりの意味があるわけですから。
き ほんと、それ。ということで、まずは通販初心者向けのツールから順番に紹介していきましょう。
段ボールの箱が開けられるコクヨの「2Wayハサミ〈ハコアケ〉(チタン・グルーレス刃)」
き ということでまずは、コクヨの「ハコアケ」というハサミから紹介。先ほど、悪い例としてハサミで開けちゃう人をあげました。ハサミを大きく開いて刃の先端をガムテープの上にガスッと突き刺して、バリバリとテープを切り裂いちゃう人のことですね。
編集・牧野 あっ、僕はそれ派です。ハサミでやっちゃう。
菅 ハサミも一応刃物ですから、そういう持ち方をすると危ないですよ。
き 対して、このハサミ「ハコアケ」は開梱用の「ハコアケモード」という機能が付いていまして、安全に段ボール箱が開けられるわけです。ハンドルにスイッチみたいなのが付いていますが、これをスライドさせつつハンドルを握ると、刃先の欠けた個所から、もう片方の刃先がわずか1oほど出てくるんです。
スイッチをスライドさせながらハンドルを握ると、「ハコアケモード」に
写真左が、ハサミとして使う通常モード時で、写真右が「ハコアケモード」時。欠けたような先端から刃がひょっこりとのぞいている
編集・牧野 ……? あっ、ほんとだ。よく見ると刃が出てますね。でも、こんなちょっとした刃で切れるんですか?
き これだけで大丈夫。あとはハンドルを握ったまま、ちょぴっと出た刃を段ボール箱のフタの合わせ目に貼ってあるガムテープの上をスーッと走らせると……。
菅 切れました! 刃の側面に指をのせるところがあるので、そこに人差し指を置くとラクですよ。
1mmほどの刃でも、テープを切るだけなら必要十分
編集・牧野 切れる切れるぅ〜! で、これは普通のハサミとしても使えるわけですよね?
菅 もちろん。かなりよく切れるハサミですよ。
き どれほど僕がオープナーを買うべきって言っても、「わざわざ段ボール箱を開けるためだけの道具を買うのもな……」って人はいるわけですよ。じゃあ、ハサミとしても高機能で、さらに開梱できるツールとしても使えるヤツならどうですか、と。
編集・牧野 そっか、それなら買ってもいいかなと思うかも。
き あと、お米や水などの重い物が入った段ボール箱は、PP素材の平たくて硬いバンドで結束されてることがあると思うんですが、あれってカッターでは切りにくいんですよね。ハサミだと一発で切れますから、これ1本で開梱ができてラクですよ。
コイン型ボディを開いて刃を出すデザインフィルの「ダンボールカッター」
き 僕は最近、アメリカとか中国の通販でよく買い物をするんですけど、海外便って、段ボール箱をテープでグルグル巻きのガッチガチに固めた「ミイラか!」みたいな梱包で来るんですよ。そうなると、「ハコアケ」だと刃が小さすぎてちょっと開けにくい。
そんな通販の段ボール箱をザクザクと開けたい通販ヘビーユーザーにおすすめなのが、デザインフィル「ダンボールカッター」です。2018年3月に発売された製品ですが、これはすごく開けやすい!
菅 ですよね。私もいま自宅でこれを使っています。確かに開けやすい。
き 普段はコインみたいな円盤状なんだけど、開けると中からセラミック製の白い刃が出てくる。この刃の長さは約4oあるので、海外からの“ミイラ段ボール箱”にも余裕で切り込めます。
菅 私、海外通販ってまだ使ったことがないので、せっかくだから海外便を想定してビニールテープをグルグル巻きにして切ってみていいですか。……うん、スーッと気持ちよく切れますね! 刃が段ボール箱の合わせ目にうまく入ってくれている感じ、わかります。
何重にも重ねて貼られた梱包用ビニールテープも、気持ちよく切り込める
き やっぱり刃の長さがこれぐらいあったほうが、開ける時に安定しますよね。またこの4oというのが、段ボール箱を開梱するのにちょうどよくて。
編集・牧野 ちょうどいいって、どういうことですか?
き 一般的な宅配用の段ボール箱は、厚さが3oの「Bフルート」って規格なんですよ。なので、4oの刃というのは、段ボールにマックスまで切り込めて、かつ中身が傷つく危険性がほぼないというギリギリの長さなんです。しかもセラミック製の頑丈な刃なので、ちょっと無理にねじ込んでも曲がったり折れたりしないし。
菅 段ボール箱にそういう規格があったなんて知らなかったですけど、確かにそう聞くと、ちょうどいいんだなって思いますね。よくできてるなー。
き あと、この「ダンボールカッター」は本体裏面に磁石が内蔵されていまして、金属面に貼っておくことができるんです。
菅 私は机の上に鉄板の引き出しがあるので、そこに貼って保管しています。
き わかりやすくていいですね。あとは、普段荷物をよく開けるところ……玄関だったらドアに貼っておけばいいし、台所付近なら冷蔵庫に貼っておく。いつも使う場所に備えておけば、取りに行くのが面倒だから手で開ける、みたいなこともなくなりますし、あと使ったらすぐ元の位置に戻せるので紛失もしにくい。とにかく、荷物を開ける場所の数だけ買って貼っておくのが正解。
冷蔵庫にひとつ貼っておくと重宝する
編集・牧野 あー! そうか! 1個しかない道具を家の中のあちこちで使おうとするからなくすんだ。
き こういう小さい道具は、特にそうなりやすそう。結果、なくしたからもう1個買うか……ってなるよりは、最初から複数買いしといたほうが使い勝手がいいんですよ。
流通の現場でプロが愛用する長谷川刃物「開封のこ カイちゃん フッ素コーティング」
き 最後は、物流の現場でプロが使っている本気の道具、いっときましょうか。プロの本気、というわりには名前がちょっとアレなんだけど……、長谷川刃物の「開封のこ カイちゃん フッ素コーティング」です。
編集・牧野 カイちゃん……。
き 「カイちゃん」の前には、もうちょっと刃が長い「段ボールのこ ダンちゃん」というオープナーも作ってますからね。長谷川刃物、いい物作ってるのにいまいちメジャーになりきれないの、そういうとこだぞ(笑)。
「ダンちゃん」は、段ボール箱を解体する用なので刃が長いタイプなんですが、「開梱作業用に刃の短い『ダンちゃん』が欲しい」というユーザーの声があったらしいんです。それに応えて作られたのが、この「カイちゃん」というわけ。
菅 刃の部分がノコギリ刃になってるんですね。
き もとは段ボールを切る用のノコギリだからね。
菅 段ボールって、カッターだと切れ味がよすぎて逆に切りにくいんですよね。折り目のところで切りたいのに、切れすぎて関係ないところまで切り込んじゃったり。ノコギリでゆっくり切るぐらいが逆に効率はいいのかも。
き もちろん梱包テープとかは、ノコギリ刃でも十分に切れます。
菅 うん。テープを切るだけなら力はまったく必要ないですね。この長さの刃なら、切りにくい側面のテープもラクですね。
段差があるため、短い刃では切りにくい側面のテープもサクサク切れる
き さっきまでのオープナーと比べると刃が長いので,やっぱり作業はやりやすいですよ。
編集・牧野 そうか、プロは開梱の作業量も通販ユーザーとはケタが違いますもんね。使いやすさ優先なんだ。
き 実際、これがないと仕事にならないと現場の人たちが言うぐらいで、“開梱作業の名器”と言っても過言ではない逸品ですよ。あと、今回紹介した製品は、刃にフッ素コーティングを施したモデルなので、粘着材がベタベタついてもウェットティッシュか何かでぬぐえばきれいに取れます。
菅 これ、実際に使ってる人たちは、どうやって携帯しているんですか?
き グリップの穴にカラビナを付けて、腰からぶら下げたりしてるのは見たことがありますね。
菅 そうか、鋭くないし先端も尖っていないから、それで大丈夫なんですね。ただ、私はもともと店頭で接客もしていたので、ノコギリ刃とはいえ刃を剥き出しにして持ち歩くのはちょっとNGかなあ〜。
き そういう人には、カッターのように刃を出し入れできるタイプがいいかもですね。同じく長谷川刃物から「段ボールのこ 物流くん」や、ボタンプッシュで素早く刃が戻る「段ボールのこ 物流くん モドルバ」なども発売されているので、菅さんにはそっちのほうがいいかも。
長谷川刃物「段ボールのこ 物流くん モドルバ」。裏面のボタンを押すとバネの力で瞬時に刃が収納される。なお写真は、刃を「フッ素コーティング替え刃」に換装したもの
編集・牧野 物流くん……。
き ほんと長谷川刃物、そういうとこだぞ(笑)
菅 でも、お客様の安全まで考えると、「物流くん」がいいかも。
き あと、刃先に関しては、よく見てもらうと丸い先端がちょっと薄くなってヘラみたいになっているんですよ。なので、段ボール箱の合わせ目みたいなすき間にもスルッと挿し込むことができます。
菅 おおー、よく考えられている。
き さらに刃の厚みが、約1.1mmあります。カッターナイフのS刃が0.38mm厚なので、だいたい3倍近く厚い。カッターの刃ですき間をこじっちゃうと折れたり曲がったりして怖いんですが、これぐらい厚さがあれば、多少無理したって大丈夫でしょ。
菅 そうだ、開梱だけじゃなくて段ボール自体も切ってみていいですか? このままノコギリみたいにギコギコと切ればいいんですよね?
き そうです。じゃあさっき、カッターナイフでは難しいと言っていたこの折り目のところを。
「カイちゃん」なら、カッターナイフだと難しい折り目もきれいにカットできる
菅 へぇー! 思った以上に力が必要ないですね。無理なく切れる感じ。あと、やっぱりカッターナイフみたいに一気にスパッと切れないのが、逆に危なくなくていいですね。
き ゆっくりと切るので、力加減もしやすいですしね。僕は、だいたい週に平均して10個ぐらいの通販の荷物が自宅に届くヘビー通販ユーザーなんですが、段ボール箱が溜まると、捨てる時にある程度サイズをそろえたほうが捨てやすい。なので、ギコギコと切って解体して捨てることもあります。
編集・牧野 なるほど。プロじゃなくても便利に使えそうですね!
菅 「段ボールのこ」シリーズ、いいですねえ。買う! でも、文房具店ではあまり見たことないですね。
き 実はこの辺のプロツールになると、文房具店じゃなくてホームセンター扱いですね。なので探すのはちょっと難度が高いかもですが、それこそ通販で買うといいですよ。
菅 なるほど! でも、「カイちゃん」や「物流くん」が通販で届いても、その段ボール箱を開梱する道具がないと困りますね(笑)
き 「服を買いに行くのに着ていく服がない!」みたいな話かっ!
スイッチをスライドしながらハンドルを握ることで刃先から刃が出てくる「ハコアケモード」が付いた、段ボールオープナー兼用のハサミ。刃は粘着材が付着しにくい3Dグルーレス構造に、硬度をアップさせるチタンコーティングが施されており、ハサミとしての性能も高い。
機能性と耐久性を極めた段ボール開梱用カッター。コイン型のボディに搭載された硬質なセラミック刃は、さびることなく切れ味が持続する。また、本体底面のフラット面を紙に水平に当てることで、コピー用紙の“1枚切り”としても機能する。
流通の現場で広く使われている、開梱作業に特化した段ボール専用ノコギリ。約3cmの短い刃は先端が丸くなっており、梱包の中身を傷つけることなく効率的に開梱作業が行える。刃はフッ素コーティングされており、ガムテープなどの粘着材もべたつかない。
【過去の連載記事】
[第1回]誰でも「TED」式プレゼンができる! リモコン型マウス「Spotlight」が優秀すぎる
[第2回]真鍮×アクリルの軸が渋すぎ! サクラクレパスがこだわり尽くした珠玉のボールペン
[第3回]布も段ボールもサクッ! 7,000円の最上級ハサミ「エクスシザース」
[第4回]40°の角度がミソ! “美しすぎるペン立て”「マルチスタンド」
[第5回]無抵抗感に目からウロコ! ガラス製「カッターマット」の知られざる実力
[第6回]ニッチ過ぎ! コクヨのインデックスプリンターは東京五輪で需要増?
[第7回]地味だけど歴史的進化! 綴じ具の定番「クリップ」と「ガチャック」の新モデル
[特別編] 【2018年】人気の電子辞書の選び方! 「EX-word」&「Brain」徹底比較
[第8回]「100均で十分」は大間違い! 「クリアファイル」が驚きの進化を遂げていた
最新機能系から雑貨系おもちゃ文具まで、何でも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は大手文房具店の企画広報として企業ノベルティの提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。