レビュー

DACとアンプのメーカーは合わせるべき? ベンチマーク「DAC 3B」で検証してみた

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デスクトップで使えるコンパクトなサイズ。しかし、音の実力は高級オーディオ機器に迫るもの。デスクトップオーディオで高音質を追求する人ならば気になるブランドのひとつがBenchmark(ベンチマーク)。このブランドは1983年にガレージメーカーとして誕生し1985年に法人化。元々は業務用オーディオ機器のメーカーだったが、家庭用オーディオ分野にも進出してきているアメリカのブランドだ。

手前がベンチマーク「DAC3 B」。後方にあるベンチマークのプリアンプ、パワーアンプと組み合わせて試聴を行った

手前がベンチマーク「DAC3 B」。後方にあるベンチマークのプリアンプ、パワーアンプと組み合わせて試聴を行った

SPLのD/Aコンバーター「Diamond」のレビュー記事で同社のプリアンプ、パワーアンプと組み合わせた試聴を行ったが、その組み合わせでの相性のよさ、本来のクオリティが発揮されていると感じた音が印象的だった。そこで、我が家で使っているベンチマークの「HPA4」(プリアンプ)、「AHB2」(パワーアンプ)と同じブランドのD/Aコンバーター「DAC3 B」を揃えて聴いてみたくなり今回レビュー記事を書かせてもらうことにした

ベンチマークの「DAC3 B」の国内導入は2020年で決して最新の製品というわけではない。だが、その実力は今でも十分なものを持つ。しかも横幅は249mmのほぼハーフサイズで高さは44.5mm、奥行きは220mmというコンパクトさ。デスクトップオーディオにも最適と言える。

高精度なボリューム機能とすぐれたヘッドホンアンプを内蔵した「DAC3 HGC」というモデルもあり、こちらは単体でヘッドホンやアクティブスピーカーと組み合わせるのに最適。どれもなかなか高額な製品だが(昨今の円安の影響で国内売価も結構高くなってしまった)、省スペースでも音には妥協したくないと考える人ならば気になる製品だと思われる。

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2023/08/29 07:00

数々のオーディオ技術を結集し高い性能を実現した

まずは、「DAC3 B」の基本的な内容を確認しておこう。内蔵するDACチップはESSテクノロジー社の「ES9028PRO」。8ch出力のDACチップで、左右で4chずつ出力したものをアナログ回路上で合成して最終的にバランス構成の2ch出力としている。

また独自の「UltraLock3」ジッター減衰システムを備えるほか、DSP処理は32bitで行われ、多くのD/Aコンバーターのデジタル信号上の最大音量である0dBFSを超えて+3.5dBFSまでの信号を処理できるハイ・ヘッドルーム設計となっている。

これらにより、SN比は128dB(A-Weited、0dBFS=+24dBu)、全高調波歪+ノイズ(THD+N)は-113dBFS、0.00022%(1kHz at 0dBFS)などの性能を実現している。最新のD/Aコンバーターと比べてもスペックとして十分に優秀な性能を誇っていることがわかる。このほか、電源部は分散型電源レギュレーション設計を採用して電源由来のノイズを徹底して排除するなど、すぐれた性能を実現するための数々の技術が盛り込まれた。

「DAC3 B」はシンプルなD/Aコンバーターでボリューム機能は持たず、電源ボタンと入力切り替えボタンがあるだけだ。このほかは入力を示すインジケーターや信号の量子化ビット数とサンプリングレートを示すインジケーターがある。アルミのフロントパネルにベンチマークのロゴが彫り込まれたデザインはプリアンプやパワーアンプとも共通している。

「DAC3 B」のフロントパネル。ヘアライン仕上げのアルミ板に彫り込みのロゴマークがあしらわれている

「DAC3 B」のフロントパネル。ヘアライン仕上げのアルミ板に彫り込みのロゴマークがあしらわれている

背面の入出力端子は光デジタル音声入2系統、同軸デジタル音声入力2系統、USB Type-Bが1系統。アナログ音声出力はXLRバランス出力とRCAアンバランス出力が各1系統。このほかには12Vのトリガー端子がある

背面の入出力端子は光デジタル音声入力2系統、同軸デジタル音声入力2系統、USB Type-Bが1系統。アナログ音声出力はXLRバランス出力とRCAアンバランス出力が各1系統。このほかには12Vのトリガー端子がある

底面を見たところ。シャーシ自体はコの字形の鋼板を上下にサンドイッチしたシンプルな構造で、脚部もゴム脚が付いているだけの簡素なものとなっている。このあたりに元々が業務用機のメーカーという雰囲気も感じられる

底面を見たところ。シャーシ自体はコの字形の鋼板を上下にサンドイッチしたシンプルな構造で、脚部もゴム脚が付いているだけの簡素なものとなっている。このあたりに元々が業務用機のメーカーという雰囲気も感じられる

ベンチマーク「DAC3 B」の主なスペック
●接続端子:デジタル音声入力5系統(光×2、同軸×2、USB Type-B)、アナログ音声出力2系統(XLR、RCA)
●対応サンプリング周波数/量子化ビットレート(USB Type-B):〜192kHz/24bit(PCM)、2.8MHz(DSD)
●寸法:249(幅)×220(奥行)×44.5(高さ)mm
●重量:約1.36kg

D/Aコンバーターとアンプの相性とは? その根幹についての考察

試聴の前に使用する機器と接続について説明しよう。再生機器はいつもどおりの「Mac mini」で再生アプリは「Audirvana ORIGIN」。これをUSBケーブルで「DAC3 B」に接続している。「DAC3 B」からの出力はバランス出力でプリアンプの「HPA4」とパワーアンプの「AHB2」(2台をBTLモードで動作)もバランス接続だ。

「DAC3 B」のバランス出力は+24dBu(12.28Vrms)もある。これは業務用機器で使用される高出力だ。一般的な家庭用機器のバランス出力は4Vrms、アンバランス出力は2Vrms。送り出しの出力が大きいほどパワーアンプはゲインを低くできSN比が向上する。出力電圧の高さを比べるだけでSN比が向上するのがわかるだろう。

だが、ここでアンプが一般的な家庭用の仕様である4Vrms出力に合わせた設計になっているとゲインが大きいため音量が過大になり、ボリュームを絞ることになる。ボリュームを絞るということはダイナミックレンジが狭くなりかねない。

このようにD/Aコンバーターの出力とアンプのゲインの相違があるとD/Aコンバーターがいかに高性能でもそれを十分に発揮できないとベンチマークは考えた。そこでパワーアンプ「AHB2」では3つのゲイン設定が用意されている。2Vrms出力用と接続するためのハイゲイン、4Vrms用の中ゲイン、+24dBu(12.28Vrms)用の低ゲインだ。送り出し側の機器が+24dBu(12.28Vrms)の出力に対応していれば、低ゲインで使うのが最も高音質であるというのがベンチマークの見解だ。

このほか、「DAC3 B」の128dBのSN比を生かすため、「AHB2」はパワーアンプとしては異例の132dB・歪み率0.0003%の性能を達成している。これが自社のDACの本領を発揮させるためにプリアンプとパワーアンプを開発した理由だ。

今回のテストではD/Aコンバーターもプリアンプもパワーアンプもベンチマークの製品なので、当然「AHB2」の設定は低ゲインの設定だ。

なお、プリアンプの「HPA4」もSN比137dB・歪み率0.00006%を達成している。理屈では+24dBの入力信号をプリアンプのボリューム位置0dB(フルボリューム)としてパススルー出力、「AHB2」に送るのが最も高音質となる。が、一般家庭では非常識な大音量になるので(スピーカーの能率によって多少の違いはあるが)ボリューム位置は-10dB〜-15dBくらいで聴いている。このあたりは業務用機器の常識で作られた機器という気がしないでもないが理屈としては高性能、高音質を維持できるのも確かではある。

説明が長くなってしまったが、つまるところベンチマークとしてなるべく本来の実力を発揮できる構成で試聴をしていることがわかってもらえればよい。このような説明を長々としたのは、「D/Aコンバーターとアンプの相性」などと呼ばれる問題のひとつがこのD/Aコンバーターの出力とアンプのゲインの相違にあることを知ってもらいたかったため。

一般的なパワーアンプでもゲイン調整ができる製品は少なくないので、D/Aコンバーターの出力レベルを調べてそれに適したゲインを設定すればよい。ベンチマークに限らずD/Aコンバーターの実力をきちんと発揮させることができるだろう。

性能を誇示するかと思いきや、素材そのものをありのままに描くダイナミックな音

左が試聴に使用した「岸辺露伴は動かない/岸辺露伴ルーブルへ行く オリジナルサウンドトラック」

左が試聴に使用した「岸辺露伴は動かない/岸辺露伴ルーブルへ行く オリジナルサウンドトラック」

ではその音を聴いてみよう。CD「岸辺露伴は動かない/岸辺露伴ルーブルへ行く オリジナルサウンドトラック」(リッピングファイル)から「ザ・ラン」を再生。なかなかに激しい音で始まるスリリングな曲だが、音の立ち上がりは鋭いし目の前に迫ってくるようなダイレクト感がある。だが耳に刺さるようなことはない。

このあたりは高調波歪率の低さが効いているとも思われるが、決して性能を誇示するような音には感じない。スピード感、パーカッションのリズム感など、生の演奏を聴いているかのようだ。ドラムの低音のボリューム感は等身大で量感をともないながらも反応が速く、膨らんだ感じにならない。さまざまなパーカッションが自由自在に鳴らすリズムもキレ味よく、弦楽器によるスリリングなメロディーも実に躍動的だ。

音色は無色透明。色付けは一切ないと感じるようなストレートさだ。これは普段から使っているベンチマークのアンプと同じ傾向なので聴き慣れた感じもあるが、それだけによくわかるのは、ダイナミック感や勢いよく出てくる音のエネルギー感がたっぷりであること。

「DAC3 B」にとって最適なはずの組み合わせなのでこれまでに聴いた他社のD/Aコンバーターと比較するのはフェアではないかもしれない。しかし、音の出方、音場の広がりや音像定位などのバランスのよさを確かに感じる。そのうえで音のエネルギー感やダイナミックさがよく伝わるのだ。

ベンチマークのような音の色づけの少ない傾向のものは、素っ気ない音に感じることもある。しかし、ここまで音がダイナミックになり音の1つひとつが生き生きと躍動して音楽を彩ってくれると、逆に艶とか潤いとかは不要だとさえ感じてしまう。

「DAC3 B」の音は、弦楽器の艶とか声の潤いのような官能的な表現を志向する人が聴いても“これはこれでよい”と感じられるであろう説得力がある。ただの高性能な音、無色透明な音ではないのだ。

続いては久石譲/ロイヤル・フィルによる「A Symphonic Celebration - Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」のハイレゾファイルから「風の谷のナウシカ」の楽曲を聴く。フルオーケストラらしいスケール感と音場の広がりがあるのは当然だが、広すぎも狭すぎせず等身大のスケールだ。極端な言い方をするとマイクセッティングの違いなど、録音エンジニアの意図が伝わるような音場の解像度の高さを感じる。オーケストラの演奏にピアノソロによる旋律が重なるところでもその演奏の奥行きがよくわかるし、混声のコーラスが加わるとそのステレオ空間の層の重なりがよく伝わる。

情報量豊かでどちらかというと個々の楽器の音の質感とか、譜面を追いながら聴きたくなるような分析的な傾向はあるのに、音楽としての躍動感とか壮大なフィナーレの高揚感に感激させられる。体験としてはコンサートでの演奏を聴いているものに近い感覚がある。

かなりのベタ褒めになってしまったが、決しておおげさに持ち上げたつもりはない。ベンチマークのアンプのユーザーでもあるので「おそらくこういう方向の音になるだろう」という予想も当たったが、その期待以上の音楽的な感動を味わえた喜びが大きい。

このあたりはまさしくD/Aコンバーターとアンプの相性がばっちりだったことによる相乗効果もあると思う。それらを抜きにして単独での音質を考えても、情報量の豊かさ、音場というより空間そのものをリアルに描ける能力の土台となっているSN比やダイナミックレンジ、低歪みといったスペックの優秀さは大きな特徴と言えると思う。

スピーカー派もヘッドホン派も、コンパクトサイズで高性能を追求する人にはぜひ注目してほしい

SPLの「Diamond」を試したときにも感じたが、今回もD/Aコンバーターとアンプを同じメーカーで揃えたときの本領発揮と言える音のよさを実感させられた。特にベンチマークは自社のD/Aコンバーターを生かしきるためにみずからアンプを設計したと公言しているほどなのだからその成果は間違いないところ。

だが、これがエスカレートして音の入り口から出口(スピーカー)まですべて同じメーカーで統一となってしまうのもちょっと面白くない。こうしたオーディオコンポーネントは異なるメーカーのものを組み合わせて最も自分にフィットする音を探すというのも大きな面白さだからだ。

そのうえで、今回のキーポイントでもある、D/Aコンバーターの出力レベルとアンプのゲインの関係のようなことをきちんと把握して製品選びをすることが重要になると思う。相性のひと言で切り捨ててしまうのももったいないし、それぞれ本領を発揮した状態で鳴らしてやりたいと改めて思う。

アンプとスピーカーで言えば、アンプ側の出力やダンピングファクター、スピーカーならインピーダンスの変動などが絡む能率(出力音圧レベル)など、極めようとすれば難しい専門用語もきちんと勉強する必要が出てくる。こういうお勉強について口うるさく言うのも野暮だが、多少の理屈を学んでおけば趣味の幅はもっと広がるだろう。

現在、「DAC3 B」くらいコンパクトなサイズのD/Aコンバーターは数多く登場しているが、それでもこれだけの高性能を実現した製品となると決して多くはない

コンパクトであることを重視する人にとって、「DAC3 B」はとても大きな魅力があると思う。ベンチマークならアンプもほぼハーフサイズで揃えることもできる。スピーカー再生だけでなくヘッドホン再生で高音質を追求する人にとっても改めて注目してほしいモデルだ。

鳥居一豊
Writer
鳥居一豊
オーディオ専門誌の編集スタッフを経て独立。マンガ、アニメ、ゲームをこよなく愛し、視聴取材などでも数多くの名作を取り上げる。ホームシアターのために家を新築して早10年。現在は8.2.4ch構成のDolby Atmos対応サラウンドシステムと120インチスクリーン+プロジェクターによる視聴設備を整えている。ホームシアターは現在でもまだ進化する予定。
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柿沼良輔(編集部)
Editor
柿沼良輔(編集部)
AV専門誌「HiVi」の編集長を経て、カカクコムに入社。近年のAVで重要なのは高度な映像と音によるイマーシブ感(没入感)だと考えて、「4.1.6」スピーカーの自宅サラウンドシステムで日々音楽と映画に没頭している。フロントスピーカーだけはマルチアンプ派。
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