カメラファンには説明不要のブランド、ライカから登場したプロジェクター「ライカ Cine Compact 1」をレビュー。独自レンズと画像処理技術が実現した画質とは……
投写したい壁に向けるだけで映像の歪みやピント調整まで自動で行えるジンバルスタンド一体型プロジェクター市場に、ライカブランドのコンパクトモデル「ライカ Cine Compact 1」が登場。「ズミクロンズームレンズ」と独自の画像処理技術「Leica Image Optimization」による高画質を謳う本製品の実力は? 自宅でじっくりと視聴してみました。
「ズミクロンズームレンズ」を搭載。「Summicron/ズミクロン」とは、絞り開放のF値2.0のレンズに使う名称で、このプロジェクター用レンズもしかり。なお、『「ズミクロン」の名は、頂点を表す「summit」とギリシャ語で「色」を意味する「chroma」を組み合わせたものが由来とされて』いるとのことです 出典:ライカの用語集
まずは、「ライカ Cine Compact 1」を簡単に紹介しておきましょう。実はライカブランドのプロジェクターがリリースされたのは本製品が初めてではありません。日本には導入されていませんが、「ライカ Cine Play 1」というやや大きめの製品や「ライカCine 1」という超短焦点プロジェクターが先行して発売され、話題となっていました。
そして、日本初上陸となったのが「ライカ Cine Compact 1」。コンパクトなジンバルスタンド一体型モデルで、すでに市場にある同スタイルの製品と同じように、レンズを向けた先が大画面になる手軽さがひとつの魅力と言えます。
また、4K表示に対応したDLPプロジェクターであること、光源がRGB3色レーザーであること、OSはGoogle TVで、これ1台でさまざまな動画コンテンツを再生可能であることなど、最新製品らしいスペックが揃います。
「ライカ Cine Compact 1」の使用イメージ。ジンバルスタンド一体型の本体は、レンズを向けた場所が画面になる仕組み。もちろん、フォーカスなどは自動で合わせてくれます
冒頭のとおり、本機ならではの特徴は「ズミクロンズームレンズ」と画像処理技術「Leica Image Optimization」を搭載していることでしょう。今回のレビューのポイントは「ライカ Cine Compact 1」が、同等の機能を持つほかのジンバルスタンド一体型プロジェクターと比べてどんな魅力があるのか? つまり、独自のレンズや画像処理技術がどのような成果をあげているか、とも言えます。
結論から言うと、本製品では価格差以上の満足感が得られました。ライカブランドならではのモノとしての質感はもちろん、映像や音質に関わるプロジェクターの基本部分の随所で、手抜かりのない“さすが”と思わせるポイントが押さえられているのです。
「ライカ Cine Compact 1」は0.47インチのDMDを使ったDLPプロジェクター。光源はRGBレーザーで明るさの最大値は1700ルーメン(ウルトラモード時)。サイズは209(幅) x 226(奥行) x 193(高さ) mm 、重量は約4.4kg(本体のみ)
リモコンもボディと同様、ライカロゴ入りのアルミニウム製で上質。自照式ではない点は残念
本体はアルミニウムで、高級感があります。天板にはライカのロゴ入り
HDMI入力は1系統(eARC対応)。HDMIケーブルをつなぐと画面に通知してくれる気配りもあります。また、電源供給は付属のACアダプターで行う仕組みです
ここからは実機をテストしていきます。まず、映像設定内の「映像メニュー」でプリセット画質を確認してみましょう。初期値は「標準」で、ほかに「スポーツ」「節電」「PC/ゲーム」「映画」「FILMMAKER MODE」「ダイナミック」があります。
プリセット映像モード(「映像メニュー」)のほか、各種画質調整が可能。「なめらか調整」は各モードで1度確認したい項目です。「オフ」もしくは「フィルム」モードを推奨します
結論を述べると、ドラマやバラエティ、スポーツ、音楽ライブ、そして映画中心ならば、映像メニュー「標準」を中心に、ときおり「映画」モードに切り替えるのがよさそうです。そしてちょっとマニアックに映画を見たい人なら「FILMMAKER MODE」も駆使するとよいでしょう。
「標準」と「映画」は、色のテイスト自体に違いはあまりなく(ガンマ2.2、色温度「ウォーム1」と共通)、主な違いはコントラストの扱い(「映画」は暗部の見通しをよくしつつコントラストは変動させない)です。
唯一気になったのは動きの処理で、「標準」でも「映画」モードでも初期設定のまま(「標準」ではなめらか調整「標準」、「映画」ではなめらか調整「クリア」)ではシーンによっては動きに伴うがたつき(ジャダー)が見られます。この「なめらか調整」だけは、いずれのモードを使う場合でも「フィルム」または「オフ」にすることを推奨します(ちなみに「FILMMAKER MODE」では、「なめらか調整」の初期設定は「フィルム」でした)。
なお、入力信号がDolby Vision映像の場合、Dloby Vision「ブライト」「ダーク」「カスタム」から選択することになります。また、HDR信号でも「HDR標準」など、名前に「HDR」が入る専用モードになります。
以上を前提にして、映像モードは「標準」にして見た印象をまとめて記します。
コントラストは上から下まで滑らかにつながり、細い線までよく解像しているのは4Kプロジェクターならでは。周辺まで均一性が保たれているあたり、さすがは「ズミクロンレンズ」です。雲がたゆたうシーンや一面の雪景色でも背景まできっちり解像し、空にも不要な縞模様(バンディング)が出ることはなく、かつ雰囲気があるのです。
RGBレーザー光源特有のクセっぽい赤がなく色が濃すぎないため、同じ動植物でも個体差がはっきりと見分けられ、それが全体の生命感につながります。夜景でも印象は同じで、通常は暗い夜景に立つビルの窓の明かりを数えますが、各ビルの外壁の違いに目が行きます。スペックシートには表れない、質感描写にすぐれていると言えるでしょう。
ダイナミックコントラスト機能(シーンに応じてリアルタイムでコントラストの強弱を調整する機能のこと)の影響で、明るいシーンから暗いシーンに切り替わった瞬間、1秒ほどかけてじわっと明暗が変わる場面がありますが、これは映像モードが「標準」だから。「映画」モードでは本機能の初期設定が「オフ」になっており、この点もさすがよくわかっていると感心します。
マグネターのブルーレイプレーヤー「UDP900 MK II」をHDMIでつなぎ、Ultra HDブルーレイ「落下の王国」で6人のカラフルな勇者が揃うシーンを見てみましょう。映画作品ではありますが、映像モード「標準」でも絵作りが派手ではないので悪くありません。ハイライトのキラリとするアイキャッチや黒服の表面のテカリ、剣の輝き、赤白毛皮も色が過剰とは感じません。むしろ最近の動画作品に慣れた人ならば、このぐらいのメリハリのある画調がよいのかもしれないと思わせる何かがあります。もっとも、やはり「なめらか調整」を「標準」から「フィルム」または「オフ」にしたいところ。急激にパンするシーンでガタつきが気になることがありました。
なお、「FILMMAKER MODE」は枯れすぎていて、古い退色したフィルムのように見えるかもしれません。Netflixで「ブラザーズ・グリム」を「FILMMAKER MODE」で鑑賞しましたが、赤ずきんも地味に。いっぽうで「映画」モードにするとハリー・ポッター調と言うべきか最近の作品っぽくなります。いずれにせよ、映画鑑賞で終始印象的なのは、アイキャッチの輝きでした。
さらに、録画番組のBD-Rを再生してみます。NHK BSの「秘仏開帳」は、映像モード「標準」で再生。堂内にしてはやや明るめですが、明暗のバランスは良好。曼荼羅のオレンジと蝋燭の灯のオレンジ、袈裟の黄と蝶番の金、簾の茶、リンの黄といった微妙な色の違いをていねいに描きます。二間観音の白檀から彫り出した群青の蓮の土台や、背後の金唐草文様の透かし彫りが精細かつ躍動感たっぷりに描かれ、贅沢さとともに作り手と承継者の思いをつないできた強い霊験をうかがわせます。
元々SD画質の「日曜美術館Eテレ」の再放送番組でも、岸惠子の口紅と衣装の赤、スタジオセットの赤、ペンダントの赤まで、考え抜かれたに違いないコーディネートにまで目が行きます。解像度のスケーリングも良好で、YouTubeのようにさほど高画質でないソースも無難に処理して見せます。
音質にフォーカスしてテストしてみると、まず音量にビックリ。MAXで「100」のうち、一般のご家庭では「50」でも大音量かと思います。音量を上げても極端な重低音でない限りビビりがほとんど出ないのは、アルミニウム一体の筐体のおかげでしょう。もちろん、スピーカー構成を2.0chにして低音域を欲張っていないことにもよるはずです。
音質モード(「音声メニュー」)は、「標準」「映画」「スポーツ」「音楽」「ニュース」「深夜」「ゲームモード」が用意されています。「標準」で、大方のテレビよりもバランスよく聴けるはずです
また、「サウンドエフェクト」(サラウンド効果の付加機能)として「Dolby Audio Processing」「DTS Virtual:X」があるほか、人の声を強調して聴き取りやすくする「Dolby Dialogue Enhancer」、拡張設定の中にはイコライザー(周波数特性ごとの調整)もあるという充実ぶりも特筆されます。
音楽鑑賞に際しては、テレビの音声が聴き取りづらい人以外は「Dolby Dialogue Enhancer」はオフにしたいところ。さもないとギターがギュインギュイン唸りすぎる(高音域が強調されすぎる)からです。内蔵アプリでNetflix「Fujii Kaze Stadium Live “Feelin’ Good”」で試すと、音声メニュー「音楽」で「Dolby Dialogue Enhancer」はオフが適切でした。
何より重要なのは、凡なポータブルBluetoothスピーカーを超える、素直でウェルバランスな音。「サウンドエフェクト」を「オフ」にした場合はもちろん、「Dolby Audio Processing」にした場合でも、藤井のボーカルがクッキリして、バンドの楽器や会場の歓声がその背後に爽やかに広がります。より3D感を得たいなら「DTS Virtual:X」もアリですが、ややこもってしまうきらいがありました。
「サウンドエフェクト」を入れるならば、基本は「Dolby Audio Processing」(デフォルト設定)でしょう。本機能を使うと高音域がつまびらかになります。ただし、音量を上げて盛り上がりたいなら「オフ」にしたほうがやかましさがなく、ベースやドラムラインがアナログ的な自然な響きになります。
「サウンドエフェクト」を「オフ」にすれば素直な万能型の音質を楽しめますし、「Dolby Audio Processing」を使えばサラウンドの広がりも得られます。これ1台でひとまず音まで満足できそうなのは、とてもありがたく、同タイプのプロジェクターのなかでは随一の音質とも言えます。
「ライカ Cine Compact 1」は画質・音質ともに“さすがライカ”と思わせる説得力のある製品です。価格.comの最安価格(2026年10月26日時点)は30万円弱と決して安くはありませんが、価格以上の満足感が得られるはずです。
1700ルーメン(ANSI)という、この価格にしてはむしろ控えめとも言える明るさ表記を気にする人がいるかもしれません。しかし、これは画質を優先した結果でしょう。「明るい部屋でも使える」と謳う明るさ重視のレーザープロジェクターが増えているなかで、明るさの余力を画質に振ったと感じさせる誠実な姿勢は、映像からも感じられました。
そして音質。多くのスマートプロジェクターが「これ1台で映画を楽しめる」と謳いつつ、実際に試聴すると外部スピーカーに頼らざるを得ないほど音質が犠牲にされていることは珍しくありません。そんななか、「ライカ Cine Compact 1」の音質は単体アクティブスピーカーとして成立するほどの完成度でした。本体がしっかりしたアルミニウム筐体ということもあるのでしょう、十分実用的な実直サウンドを得られるのです。